03.15
無計画停電によって、茅ヶ崎の町は、まるで北欧のような白夜の様相であります。
自転車で町を一回りしましたが、まだ18時というのに人影はなく、明かりも絶えて、空ばかりがへんに薄明るいのです。
明るくも暗くもない、ああ、これが自然なのだと思いましたが、とても不自然なのでした。
誰か私を呼んでいるような気がするのですが、振り向くこともなく、それが錯覚にもならない期待だということは分かり切っておりますです。
そしてそれも過去に体験した期待の名残り。
ずいぶん前のことですが、そうですね、19才の頃だったでしょうか。
好きな女を探しながら、こんな白夜のような風景の郊外をさまよったことを思い出したのであります。
イヌに吠えられたりしましたですね。
語るべきにも値しない過去の思い出が、停電の町を廻っているうちによみがえるのですから、頭脳というのは不思議です。
きっと野生動物なども、このような感覚の記憶を有しているのでしょう。
嗅覚とか聴覚とか臭覚をもっと鍛えれば、あるいは野生動物のカンを備えられるかも知れませんですね。
さきほど…夜の11時あたりに地震があって、その直前に野鳥がいっせいに騒いだんですよ。
そのようなカンをなんとかして持ちたいものであります。
あの夜に捜し歩いた彼女も、いまは老いていることでしょう。
老いて孫でも抱きながら地震の報道を…いやまさか津波に呑まれたわけではないでしょう。
などと想像しても、もはや白夜をさまよう情熱はおきません。
ほんとうに起きないかと自分に問いますが、
「あのころは相手の迷惑を考えなかったからなぁ」
という答えが返ってくるばかり。
「オノくんの情熱は自分中心なんじゃない?」
これは彼女の友達からいわれた言葉であります。
発作時な情熱に見舞われるたびに、いつも心をきしませ続ける言葉なのでございます。
今年の夜空は星がきれいに眺められそうでありますかもです。