12.04
イヌの散歩でとおりかかる道であります。
大きな通りから、この小道に折れると、きまって同じことを思い出してしまうのであります。
まず、あるお女性がホテルの鏡に向かってメイクしているのです。私メがのぞこうとすると、「見ないで」と笑うのです。
「どうして?」
と問いかけますと、
「みっともないでしょう?」
と答えるのであります。
たったそれだけの想い出であります。
それだけの記憶が、この通りにさしかかると、はじめから思い出されるのであります。
「見ないで」「どうして?」「みっともないでしょう」
お女性は下着姿です。鏡に上半身をのばしてアイラインを入れているのであります。整形のおっぱいがブラからはちきれています。
「どうして?」
「みっともないでしょう」と、アイライン。想い出は繰り返すのであります。
前後のことは思い出せません。
思い出したようでも、よく考えると私メの創作だと気づきます。
西日暮里の暗いホテル。鳥かごのように揺れるエレベーター。カビ臭い部屋。
そこまでは思い出すのですが、いつのことだったのか、夏なのか秋なのかも分かりませんです。
私メは濡れたベッドに腰かけているのでありました。
欲望を果たし終えた虚脱状態なのでありました。
もしもラブホに一人でいたら、ホラーですね。
そのお女性はじつは亡霊だったりして。
「見ないで」
「どうして?」
「みっともないでしょう」とアイライン。はちきれそうなオッパイ。
ちかごろは、ひゃっくりするように思いだされる、その記憶の楽しみのために、この通りを大切にしているのであります。
「みないで」「みっともないでしょう」「みないで」「みっともないでしょう」「みないで」「みっともないでしょう」「みないで」「みっともないでしょう」「みっもないでしょう」「みっともないでしょう」………。
源氏物語の六条の御息所の怨霊。
近々ロードショーとなる「源氏物語」。
ちと、そそられるものがございますです。