04.14
不思議なこともあるものであります。
仕事を切り上げ、地下鉄東西線で大手町に向かったのであります。
視線を感じ、ふと顔を上げましたら、向かいの座席で微笑している老美人がいらしまして、
「お、ホヤ柳さん」という言葉を飲みこんだのでありました。
昨年、イタリアに行っていたとき、人ので旅行していたエレガントなご婦人となんとなく知り合い、「ではワインでも」と夕食をいっしょに、というなりゆきになったのでありました。
画像がそのお方であります。
名前は存じません。
こちらも名乗りませんでしたから、でもそれでいいのであります。
ホヤ柳さんという仮名は、髪型が黒柳徹子に似ていたからでした。黒柳の髪形をパイナップルと呼ばれていた頃がありまして、では、海のパイナップルということで、ホヤ貝のホヤ。ホヤ柳さんなのであります。
しかし、地下鉄でホヤ柳さんは、驚いたには違いありませんが、イタリアのときと同じように「まあまあ、やっぱり」と嬉しそうにはなし始めたのでございます。
大手町までは駅で四つ目。
瞬くうちに到着であります。
「じゃぁ、またね」
「ええ、また」
と、一瞬の邂逅でございました。
もしも、ホヤ柳さんが、あと60才…いや50才も若ければ、「ええ、また」では終わってはいなかったでありましょう。
画像のイタリア娘のようであれば、大手町では降りずに、せめてメアドくらいは聞きだしていたはずであります。
でも、こういう再会は嬉しいモノであります。
確率からすればゼロに等しい再会であります。
どうせなら宝くじに当たった方が良かったのに…とは思ったはみても、本気で悔やんだわけではなく、再会の喜びは、あとからじわじわと沁みてくるのでございました。
連絡先を教え、そこからドラマは始まるのでしょうが、ドラマを求めているのではなく、旅行先での謎のイメージを大切にする関係もまた貴重なのであります。
ーーめぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かなーー 紫式部
「仲良しだった人とめぐり会ったけれど、その人かどうかハッキリとたしかめる間もなく、まるで真夜中の月が雲に隠れてしまうように、その人はあわただしく行ってしまいました」
まさにこのような再会なのでありました。
そのあとで、あわててロト6を買ったのでありますです。