04.17
かつて軍艦島には五千人の人が暮らしていたということです。
これは当時の写真でございます。
真ん中の階段は通称「地獄階段」。
島内マラソンのコースに入っていて、きつい傾斜を駆けあがるのにひと苦労だったということはひと目で分かりますです。
なので、地獄階段なのでありましょう。
軍艦島をひとつの恋の記憶と考えれば、恋愛の本質に迫ることが出来るかもしれません。
出会いから成就まで、それは夢見るような気持ちで、日常のごく普通の景色さえ、新鮮に感じられるのであります。
たとえ、それが未来のない禁断の恋だと分かっていても、心が弾み出すことをどうにも抑えることは出来ないのであります。
恋が成就してから、しばらくは蜜月の時を満喫するのであります。
が、やがて亀裂が入ります。
本人たちは、まだそんな時ではないはずだ、なぜ、こんなにも早く苦しみがはじまるのかと、うろたえるのであります。
自分の心と、相手の心を比較して、情熱が激しいのは自分の方だと、不満を持つのもこの頃でありましょう。
相手を裏切るのも、こんなときなのでありますが、裏切らなくても、お互いの心の温度を探りはじめるのであります。
人は人を求めて集まり、人は人に傷つき散っていくのでありましょうか。
かつて激しく愛した、その愛の廃墟というわけであります。
やり直そうと何度かは頑張るのですが、頂点を越えてしまった恋は、もはや滅びるしかないのかもしれませんです。
滅びた方が美しい場合もございましょう。
とっくに気持ちは醒めているのに、断ち切ることのできない関係も多く例をみることができるのであります。
孤独に堪えられるかどうか。
軍艦島のように、孤独になることを選んだ恋は美しいのかもしれません。
現実は、恋に美しさを求める方が間違っていたとしても…であります。
それでも胸のなかでフォルダー化された孤独の恋を、あるとき、たとえばお酒の酔いにつられて開いてみましても、思いのほか風化しておりまして、思い出すのは一つか二つの記憶。笑いあっていた声が、頭のなかを通り過ぎるだけでございます。
淋しいという孤独にかがみこみそうにはなっても、すでに恋の傷は消えていたりするのであります。
「もう六年も、わたしたち続いてるよね」
「そんなになるか…」
「いつまで続くのかしら」
「さあなぁ」
腐敗しながら持続する恋は、新たなる相手の出現を心待ちにしている関係なのでありましょう。
ひとりで生きるという孤独は、深夜、ぞっとして誰かにしがみついていないと眠られない不安との戦いなのでありますです。
はやく死んでしまうか、いつまでも若くありたい。
軍艦島という廃墟は、そういう人間の矛盾した無理な願望の本質に、すこしだけ気づかせてくれる場所なのでありました。