06.28
庭はなんとか体裁がついたので…と手を見ましたら泥と草の汁で悲惨なことになっておりました。
カラダ中がイガイガでもありますです。
そこで車で一時間足らずの秘湯に向かったのでございますです。
「やや、これは珍しい人がいらしたガンスな」
と、出迎えられ、「いまだば貸切状態でヤンスよ」
全国でも数えるほどしか残っていないホントにひなびた温泉地なのでありますです。
国民宿舎に「元」と書き足した看板の文字もはげかけておるのでありました。
一泊二千五百円。
温泉だけなら四百円。
食事はつかないので、泊る場合は弁当を持っていかねばなりません。
忘れたら、10キロ以上戻ったところの商店まで買い出しに行かねばなりませぬが、夜間は漆黒の細道なので危険この上もございませんです。
が、本日は宿泊はなく、湯に入るのみ。
客は私メのみ。
体をあらい、湯に身を沈めるのでありました。
川の音が聞こえるばかりであります。
いや、鳥のさえずりも聞こえますです。
指先の泥はキレイに取れております。
窓のそとは緑でございます。
「もは終わりでガンスか?」
とオヤジに驚かれますが、これでも10分は我慢してつかっていたのでありました。
パラダイスとは、このことかもしれませぬ。
ふいに眠気におそわれ、ベンチでうとうとしておりましたら、「何年ぶりだべね」と煙草を吸いにオヤジがやってきました。
「二年くれがな」
と私メ。
「ことしは11月24日で閉めヤンスから」と気の早いことを言いますです。「もう一回くれ来たらどうでガンスか?」と癒しの言葉がつづくのでありました。
「んだば、紅葉のあたりに」
と、私メの返事も気が早いのであります。
滝も健在でありまして、尾根をつたった水はひとつとなって淵にすべりおちているのでありますです。
「そろそろ下界にもどるべかな」
と、ふたたび車にのりこむのでありました。
なにとぞ、この温泉がつぶれないように。なにとぞ、有名にならぬようにと祈りつつ、下界へとつづくトンネルへと入るのでした。