2014
10.03
10.03
城跡のあたりをほっつき歩き、ふとモリオカらしい喫茶店を見つけたのであります。
無造作に貼られた店名は「六月の鹿」。
入りたくなければ入ってもらわねくてもいいよん、と木製の扉が語り掛けるよう。
これも、モリオカっぽいポーズなのでございますです。
閉店しているのかも…と思わせる静けさが漂っておりますです。
「しやねな」
と扉を押しますと、これも遠慮しがちに、古いシャンソンが消毒液のように低く流れておりまして、私メを小雨の世界から私メを誘うのでありました。
窓の外はお濠でございます。
モンタンというパスタ屋の裏木戸が見えまして、粗末な石畳がつづいておりますです。
落ち着き過ぎて、長居ができませぬ。
かえってソワソワするのでございます。
客人は一組のお女性二人連れ。
恋のお話をしておりました。
「なんだがね、最近さ、経済的なことはどーでもいいような気がしてるの」
「波長が合うんだえん、その人どは」
「んだのさ。それそれ。波長さぁ」
と聞き耳を立てているわけではありませぬが、狭い店内なのでどーしても鼓膜に届くのであります。
珈琲の香りが濃くなったと思ったら、雨粒が斜めに落ちてまいりました。
「すんごく好きだってワケではねんだけどさぁ」
「落ぢ着ぐんだえん、分がるよ、それ」
友達を相手にノロケても、まだ言い足りないご様子でございます。
濁情をお金で勘定できなくなったら、もう一緒になるしかございますまい。
その男を見てみたい気持ちになりましたが、おそらくは「へへっ、これが恋人ですかい?」と唖然とすることでありましょう。
他人のことは申せませぬ。
珈琲をすすりおえた私メは、ふたたび外へ。
老婆たちを乗せたバスが行き過ぎましたです。