2014
10.25

メールボックスをスクロールして数年前の秋のヤツ。
「お元気ですか?」という一行メールを見たりしております。

更けゆく秋に夏の日を想い出すように、いまならお女性のつらさと勇気が分かることがあるのであります。

カフェで、運ばれてきた珈琲に角砂糖を落とし、香りを嗅ぐように、けれど何も話すことはなく、笑うでもなく、さりとてため息をつくわけでもなく、通りの車の流れを眺めながら、まだ珈琲に口をつけず黙り込んだ、それがとても大切な時間だったと後になって気づくのであります。
雨降りだったか…それはさだかには憶えてはおりませぬ。

トイレにたち、それから席に戻る細長い通路から、お女性の髪が、客がドアを開けた風になびいているのが見え、それは古い日記帳をパラパラとめくっているような調べで、つい胸を突かれたことが昨日のことではなかつたかと思ったりするのであります。

今日は新月。10月も末でございます。

「お元気ですか?」
ああ、元気ですよと、PCの画面に語りかけるのです。
あなたは元気ですか、と。
あれからどうしていましてたか、と。

「もう、おしまいよね、あたしたち」
「……。だろうね」
駅の人混みの構内でサヨナラしてから、私メは電車でまっすぐに帰り、いや、コンビニによってコロッケを買って、それを齧りながら、ばかめばかめと、ゆっくりと遠回りして帰ったのでございました。

「さいごにお酒をのみたい」
「ごめんだな、それは」

「嫌いになっていい?」
「なってるさ、とっくに」

気まぐれには違いない過去のメールを消去せずに残しておくというのは、やはり男の習性なのか、それとも、自信が切れかけた時の「オレだってな」とビタミン剤代わりに使うためなのか、「お元気ですか?」を前にして「もうダメです」と答えたり「あの場所で」とその気になったり、秋の夜更けに初老は楽しんでいるのでございます。