2015
03.27

「座席、ございました!」
と切符売りに言われましたが、なんと、アンパンマン列車に乗ることになったのであります。
周囲は幼稚園児と連れの母親や老人。
車内には、アンパンマンの曲が流れ、ガキどもは合わせて小鳥のように歌い出すのでありました。

瀬戸内の島から船で四国にわたり、ふたたび岡山に引き返しているのでございます。

ガラガラに空いているだろうと油断していたところ、その列車は満席で、このアンパンマン号に空きが出たらしいのであります。キャンセルした子は病気でもしたのでしょうか。親子二座席が空き、それは岡山まで空席として私メの隣はその子の魂だけを乗せているのでありました。

神戸まで新幹線。神戸の北の工房に立ち寄った後、大阪梅田では、明石焼きを食い、そこから京阪で京都四条河原町へと向かったのでございました。

京都は中国人が蛆のようにいるだろうから、名所を避けて、穴場の千本へと進路を決めたのであります。
千本、つまり、朱雀は、かつて平安京のあった場所。

いまでは大極殿後に、この石柱があるばかりでございます。忘れられたように、観光客のひとりも訪れてはおりませぬ。
あと数日で、桜の花に包まれるのでしょうが、いまは赤くむくんだ蕾がうなだれているだけ。

京都には詳しいので、まずは宿を決め、ぶらぶらと歩くのでございました。
たまには、贅沢な店に入ってみようかと思いついたのは、千本ではるか昔に貧乏アルバイトをしていたことを、心のどこかに記憶が残り、過去への復讐という意味があったのかもしれませぬ。

夕べは貝、今夜はすっぽん。

精をつけてどーするのでありましょうか。
300年以上も営んでいる、この店のすっぽんを食ったら、他の京料理など吹っ飛んでしまうと語る有名人も少なくございませぬ。

鍋が出て、そして雑炊だけのシンプルさでございますが、すっほん一本で勝負をしている店らしく、目には見えない迫力がなみなみと感じますです。

気が付くと二時間以上も経過しているのでございました。
そして、貝とすっぽんによるパワーは、老いた体にきわめて迅速に効いたのでしょうか。

私メの足は、おお、懐かしの千本日活の前でピタリと止まるのでございました。

たっぷりとした女体の胸でむせび泣きたい気持ちが泥のように湧いてくるのをどーすることも出来ないのでございました。

が、知っているお女性は、あれから40年も経過しているのでありますから、誰もかれも60歳を超えた高齢者ばかりでございます上、連絡の方法もわかりませぬ。

ホテルに戻り、バーでグラスでも傾けた方が無難たぞと、私メの胸のなかの声は囁いております。
けれど、足は、千本日活の前から、動こうとはしないのでござました。