2016
06.24

悪性のインフルエンザにかかり生死を彷徨った老母でしたがおかげさまで死地から脱し、
「なに喰いてがえん?」の問いに、
「んだな、冷風麺だべか」
と答えるまでに回復いたしましたです。

それで、以前、少年刑務所だった向かいにある、前九年町の食堂へ。

冷風麺とは関東でいう、冷やし中華でございます。
名前の由来は分かりませんです。冷麺風のラーメンというところでありましょうか。
「冷やし中華だば、そのままだえんちぇ。オラホでは冷風麺ってつけるべ」とかなんとか、そのあたりかもしれませぬ。

オラホはラブホの打ち間違いではなく、「私たちのところでは」という意味であります。

出された冷風麺を老母はペロリ。

この食欲では、まだまだ死にそうもございません。
「カラダ、もとに戻ったみてだ」
と汁をすすろうとするので、「腹こわして下痢するから」とストップさせ、
「これからは、あんまりモリオカに戻れねかもしれね」と告げたのでありました。
「神戸で講習をすることになると思うから」と。

「大丈夫だ、だいじょぶだ」
と老母。「そったなごと心配しねんでさ。ちゃんと真面目に教えねばさ、ほに。こっちの方はだいじょぶだがら」

ふと、「EU離脱って何だべ」と訊かれました。
滝沢村がモリオカと合併することを拒否したえん、と説明したのでございます。
「んだんだ、滝沢は小岩井なんかで潤ってて、その儲けをモリオカにやりたくねくて合併話ばはねのげで、滝沢市になったんだおんね」
「それど同じさ」

そのとき、風が食堂の窓から吹きこんでほつれた前髪をなぶりました。
六甲から吹きおりてくる風の匂いを感じたのでございます。

「ところで神戸ってどんなとごだえん?」
「美人がとにかく多い街だな」
「あんや、気つけねば」
「気つけねさ」

神戸特別講義から一か月。
私メは神戸から千キロ以上も離れた食堂で、こうして老母と会話をしているのでございます。
これも夢マボロシにやがてはなるのだろうと、コップの冷水をゴクリと音を立てて飲み干すのでありました。