2018
04.13

旧岩崎邸の、この階段の下には地下道につづく階段が隠されておるのであります。

「この先は非公開」
と記された札がすすけてかけられているのであります。

撞球場へ続いているとかでしたが、目的はビリヤードをするためではありますまい。

濃密な死の匂い。
圧迫してくる時代の空気。
ぜんたいをおおうエロテックな微光。

それは地下室、地下道の存在が、ひとつの楽器となって邸宅にひびかせているのかもしれませぬ。

地下道のはじまりは、広い面積をもつ地下室。
庭園に池があっては、地下室をつくるのに支障があったのかは謎であります。

靴音も響かず重たいのでこざいますです。

死はそこに息づいております。作られた死でありますです。

お女性が、男の力を借りなければ開くことのできない場所。到達できない深い音色。乳房から内腿に走る熱線とせつなさとくるしさ。涙と汗。

扉を開くごとに、ここはどこのあたりかと、庭園が気にかかるのであります。
地上はうららかな陽だまりに大木がまだらの影を落としていることでありましょう。

非公開。
四柱推命でいえば、幸運の鍵を意味する用神に等しいのであります。だからこその非公開。

この鍵を得さえすれば、運命を自在に操ることのできる幸運への裏メニュー。

希望してもお金を積んでも限られた人しか見ることのできない空間。成功するかどうかは、運命の地下道を知っているか否かにかかっているのでございます。努力も足掻きもすべては徒労。

地下室の幾重もの扉の奥に見えてくる地下道。

西洋の古い建物には、いまだ発見されていない地下道がいくつも存在するという話は聞いておりますですが、東京も例外ではありますまい。

私メは、古い鏡の前で妄想していたのでございましょーか。

従妹の死への旅路を、現実には存在しない地下鉄駅までおりて見送ったのでございましょーか。

背後には、やはり死の匂いを満々とたたえた庭園が広がっておるのであります。