2018
04.27

津軽海峡のトンネル内で、キムラ満夫と別れ、モリオカに立ち寄ったのでございます。

廃園が私メを出迎えたのでございました。
秋に打ち捨てたまま、雪が積もり、雪が溶けて、荒れた庭に椿の花が散っておりました。
「めずらし人だごど」
草取りをしている私メの背後で、やがてあの世に旅立つ老母の声。土産を渡して、ふたたび作業にせいを出すのでございました。

「醤油、なんだったえん」
うっかり、土産のイカの塩辛と、ホテルの一室で豆腐に使った醤油のはいったビニール袋と間違えていたのでございました。旅疲れのよーであります。

集めた資料を汚さぬために、使いさしの醤油を厳重に包んでバッグに持ち帰っていたのですが、それを間違えて渡してしまうとは、そーいえば、ひどく眠くもあります。

庭のはずれの土手に、からし菜とこごみが芽吹いていました。摘み取り、原始的な方法で調理いたしましたです。

肉よりもビタミン剤よりも、春の山菜が疲れを癒してくれるのかもしれませぬ。

どこかで猫がないております。

すると、今朝まで滞在していた北の町が、ななめに傾いて思い出されてきたのでありました。

「トキオってグループ知ってるか」
老母が最新情報を告げましたです。ヤバイ予兆であります。

むりっくり女子高生にキスして捕まったんだと。泣いて謝ったんだと。いろんな会社のCМがダメになったんだど。もは将来がわがねぐなるのに謝るだけ無駄でねえんが。あどは暴力団になるんだべし。あんだも気つけねば。岩女の女にそそのかされて東京にかけおちしたえんか。おべでらえん。
むかしのごどだ。それにオレがそそのかしたことだおん。
あんや、まだ付き合ってんのっか。なしてかばうの。あんだの悪どこだよ。やめなさいよ。ほんとに性悪女に好かれるがら、あんだって人は。そのごどだけでねよ。
おめはんの選んだ女なら仕方ねっていってらけっちぇ。
んだってしあねんちぇ、あのどきはそう言うしか。泣くんだおの、男のくせして。
わすれだ、わすれだ、わすれだ。若げがったんだ。
家に火つけて自殺した人もいだえんちぇ。なしてお父ちゃんに似ねがったんだべ。事件起きるたびに、あんだでねがってハラハラしてるのさ。
すったな歳でねは。
歳でねよ、こういうごどは。先だっても来たよ。あんだど中学の時に付き合ってだという人の、その人の娘さんが、ぬらぬらした目付きして。なにがしたんでねべね。
してね、してねったら。

母にいちいち応対しながら、私メは北の町の風の音を耳にしておりました。

ーーキムラぁ、、、、満夫ぉ、、、ーー
風の音は地面の底から、夜の路面電車の通過する振動のようにひびいてくるのでございました。