2020
03.24

花巻という町がございます。
モリオカから50キロほど南下した町であります。

今日は、その花巻まで墓参りに車を走らせたのでありました。

なんとなく立ち寄った、というか、地元では有名なデパートらしき古びたコンクリートのビルがあり、その6階にある大食堂に、
「いちどは行ってみたらいいよ」
と勧められていたので、

「ちょうどよい」
機会なので小汚いパーキングに車を止めたのでありました。

選びに選んで、あんみつにいたしました。

あんみつの向こうにピンボケしているのが老母であります。
「次に死ぬのはわだすだってば」
とソフトクリーム。

なにしろメニューがこーであります。

いにしえのデパートの大食堂なのであります。
しかもバカに安いのでございます。

いにしえと異なる点は、うら若きウェートレスは一人として存在せず、すべて萎びたオバちゃん。もしくはオヤジ。

レジにはまぁそれなりのウェイトレスがいたよーでありますけれど、私メの目には留まりませんでしたです。

窓からは花巻の閑散とした街並みが見下ろせるのであります。

ゆいいつ、パンデミックの危険があるとしたら、この大食堂。

花巻の市民がココに集中し、
「おれってバカだよな」
「すったなこどねってばーん」
などと若者は、素朴な愛を語っているのでありました。

恋愛初期の二人などが、
「いつかは、あの食堂で」
と夢見た夢を実現する場所なのでございましょーか。

翌日、
「みたじぇ、見た見た」
と、クラスか職場で冷やかされ、
「そんでね、そんでねってば」
と耳まで赤く染めて恥じ入るのでございましょーか。

麗しいといえば麗しく、アホといえばアホ。

中国肺炎の恐怖とは別世界なのでありました。
みなマスクせず、マスクなどすれば、
「男らしくない」
と失恋の対象にされるのであります。

ビルの周辺にはタバコの匂いがすえてこびりつき、昭和の不良たちが、背中をまるめて喫煙しているのでございました。

少女も混じっていて、空咳をしつつタバコの吸い口を舐めるよーに吸っておりまして、こちらはイケる子っぽく、私メのニヤリを、ニヤリで返してよこしました。

心温まる、墓参りの締めくくりとなったのでありました。

2020
03.23

乗車客がほとんどいない無人に近い新幹線は、ミストのよーな雪の中をモリオカ駅にすべり込んだのでありました。

春の日差しと小雪の織りなす清冽な大気。

まだ中国肺炎の疫厄から免れている街なのであります。
桜は郡山付近でとだえ、新芽がもえだす手前の枯れ木状態のまま、はだかの大気がモリオカを包んでおるのであります。

前回…つまり先月は、
「モリオカにもう来れなくなるのでは」
その予感はぬぐわれました。

が、次なる危機に対応するために、コメの確保、水の貯蔵などが、この度の目的なのであります。すでにマスクは1月に求めております。
「どーせ使わねおん」
と老母が手を振って受け取りませぬゆえ、これは近所の方々に配布することにいたしましたです。

「おかぁちゃん、今年は芋を作るぞ」
と、昨年完成した私メの離れの隣の空き地を指さしたのであります。
「盗まれないよーに電流の柵をめぐらすぞ」
「あんや始まったぁ。うっとうし~」「

が、この日は家庭内備蓄に走ることはできませなんだ。

その電気がストップしていたからであります。

ウンコをたれよーと便器にしゃがんだ瞬間、イヤな予感がしまして、「大」のボタンを押しましたが、水が流れませぬ。
出口まじかに迫っていた大便を肛門筋を占めて直腸に戻しまして、業者に電話。
一階の冷凍庫は、水浸し。冷凍食品が溶けていたのであります。

どーやら先週のモリオカの暴風雨が原因のよーでございました。

事なきを得たのでありますが、ところが、今度はWi-Fiがつながらなくなっているのでありました。

「原因追及はいいのだ」
と、大便後、30キロのスピード違反をしてイオンに駆け込み、担当者に、
「新しいヤツがありましたね」
airターミナルを買い求めたのでありました。

中国ではイナゴが襲ってきているとか。農作物の被害が出ているとか。アヒルを離してイナゴを食わせる対策に出ているとか。
デマかもしれませぬが、
私メの立てた断易の卦は、初上のみ動いて空亡。丑辰未戌の四土全具。それらが官鬼。子孫は伏しておりますですから、油断はできませぬ。

「中国人め!」
と毎春、花見にくる中国団体客を睨み、ビッグハウスというスーパーでは彼らに難癖をつけ、
「勿来から北には来るな。モリオカの古い地名は不来方なのである」
怒りで放屁をプスプスと漏らしながら憤るのが春の習わしでしたが、今年は大丈夫。
勿来は「来るなかれ」。不来方は「来ぬ方」。
私メの閉鎖思想は、ここらへんにあるのかもであります。

疎開初日は、まぁ、そのよーに終わりました。

2020
03.22

おみごと!

世間の騒動をよそに、神楽坂の桜が満開になっていたのであります。

誘われるよーに、夜のお散歩。
ポケットに千円札を五枚ほどねじりこんで。

舗道には人影が絶え、花々の匂いがふきだまって、裏道へと私メをいざなうのでございました。

袖摺坂の石段をのぼりますと、もうそこは見知らぬ街なのであります。

いちど迷い込んだ場所に、にどとたどり着けないスポットが神楽坂にございます。
何年前のことでありましょうか。

ライターさんと、神楽坂の裏の焼き肉屋でしこたま肉を食い、近くのバーでドライマティーニを三杯飲んで意識を失ったのは、そう、まだ神楽坂に事務所を移転する前のことでございました。

ところが、そのスポットをいまだ探し当てていなのでございます。

すると、右の画像の場所に出たのでございます。
映画のセットのよーな一角でございます。ススキが残っているところなど、人工的であります。

この屋敷に住まいするお女性から手招きされたなら、抗することが出来ようはずもございませんです。女の蜜と男の蜜を交歓したことでございましょー。

快い迷いの感覚を惜しみつつ、いつしかあらぬ交差点に辿り出て、
「ああ、ここか」
現実へと戻されるのでありました。

しかし、人影はありませんです。
疫病による良い影響でございます。

煙草に火をつけました。
ギリギリまで吸い込み、路上にもみ消しました。

よしよしと桜も語りかけてくれたのでした。