2020
07.24

日が沈んでから本宅に幽霊を呼びに行きました。

「おーい」
家具のない屋敷に、自分の声が響くだけでありました。

幽霊の気配は、まだございません。
が、どこかに潜んでいるのは間違いないはず。

ずっとまえの夏。
中学生だったころに、友人と山寺に泊まり込んで人魂採集を試みたことが思い出されましたです。
曽祖父が住職をしていたという山寺で、斜面に墓が並び、その斜面の階段を人魂が一段ずつ上るようにあがっていくという話を真に受けたのであります。

昆虫採集の網を三つも担いで徹夜で待ち構えていたのに収穫はゼロ。
やぶ蚊にいくつも刺されただけでありました。

この家を取り壊す前には、しかし、たしかに幽霊はいたのであります。
玄関で草履を脱ぐ音くらいは誰でも聞いていますし、姫鏡台にはおかっぱの女の子が横切る姿も。

死んだ姉やさんが幽霊となって叔母の枕元に「げねや~(調子がわるいのよ)」という表情で座っていたという話も聞いております。
真夏に、白い服着た幽霊が、みなが茶の間でスイカを食っているときに、
「あっ」
叔母が指さすと、その時だけ身をそらすように隠れ、またスイカに視線を戻すと、
「そら、また」
白い姿で現れたということも。三日後だったかに山で遭難した、貸家に住む、その人の白骨が見つかったという偶然。

あるときは掛け軸のおもしの風鎮が風もないのに床の間にコツーン、コツーンと当たる音が。
すると翌朝に、となりの人が、
「いままでお世話になりました。今朝、親父が」
訃報を告げに来たことも。

幽霊を待っているわけでは決してありませんが、闇のまた闇のない家は、魂の入っていない仏像のよーで味気がございませんです。

このあたりに亡父の血を吐いて死んだ場所だ。ここは祖母の棺桶を置いた場所だ。ここで祖父の棺桶に釘を打ち付けたな。ここは来客が突然死した居間のあった場所だ。死んだ叔父がこのあたりに、いつも座っていたな。

いまは新築の匂いがするばかりであります。