2021
06.05

ウソ沢クンから電話がありました。
中学の同学年生です。
それほど親しい仲ではありません。
同級生のMさんから教えられたとのこと。

ウソ沢というのは陰のあだ名です。
ウソつきの癖があり、それがバレバレの嘘なのです。
たとえば、恋人が海で溺れて、助けに飛び込んだけれど死んでしまったというウソ。
「あれ、泳げないんじゃなかったっけ?」
夏のプールでは、隅で、胸を両手をクロスさせるほどの水嫌いでありました。
「恋人を死なせたショックでよう」
つまりトラウマで泳げなくなったということでしたが、あるいは泳げない口実としてなのか、14歳で恋人と、いったい、どの海に行ったのか。モリオカから海まで、当時はジーゼル列車で一時間以上もかかっていたのであります。

いまさら当時の嘘を指摘するほど残酷ではなく、夢見がちの少年だという思い出にしておくことにいたしました。

ウソ沢クンは五年前まで田舎の中学校の校長をしておることは、それとなく知っておりました。

さて、話はココからです。
「おべでるか?」
憶えているか、と切り出されました。
「学習旅行のことをよう」
ああ、そのことか、と思いましたです。

我々の中学は、岩手県の中を巡り、酪農家や、漁師さんたちのお話を聞くという、たんなる遊びの修学旅行ではなく、だから学習旅行なのでありました。

そして、とうじほとんどの中学校は修学旅行で北海道にいくことが慣例とされているなかで、教官側は生徒たちが自主的に、県内を知らなければならないというように持っていきたかったのであります。
そのため県庁などに行き、県内の僻地の保健婦の生活や、海辺の津波対策を調べさせ、それが半年にも及びました。

そして、「北海道」か「県内」かを決める時がやって来ました。

結果は、北海道。県内ならいつでも行けるというのが大勢でした。

すると、二年生の生徒は全員、講堂に集めさせられ、
「もう県内は決定済みだ」と学年長の教官に告げられました。
おいおい、と生徒たちはどよめきました。
教官はトドメを刺すように「もはや旅館やバスの手配も終わっている。いまさら北海道には行けないのだ」
一同が鎮まったころ合いを見はからい、「人生にはこんなことは山ほどあるのだ」などと訓をたれたのでありました。

「こーいうことさ」
私メは、興奮して、だんこ反発しているウソ沢クンに言ったようでありました。

さらに、その学習旅行を終え、下級生に対しての報告会がございました。
驚いたことに、いままで文句や不満を口にしていた同級生たちが、
「最高の旅行だった。キミたちも来年はぜひ県内の学習旅行に行くべきである」
これが生徒の一致した意見となったのであります。

「こーいうことさ」
ウソ沢クンは、「コークをおごるじゃ」と私メを誘ったのであります。

電話は長くなりました。
「五輪もよぅ、けっきょぐはよう」

「そーいうことか」
ウソ沢クンはしやわせそーでありました。