2021
08.24

実家の裏山に、むかし御殿様とよばれるお屋敷がございました。
天守閣をおもわせる瓦葺きの屋敷がそびえ、森の中から燦然と輝いておりました。

コンビニに行ったついでに、遠回りして、そのお屋敷への坂道をのぼったのでございます。

もう一帯に森はなく、新しい住宅が立ち並んでおりました。

御殿様跡と思われるところに、百日紅の花が夏の最後の陽光をすって、古い塀から顔を出しうなだれておりました。
ご婦人に、いちどだけ、祖母にともなわれ屋敷内にお邪魔したことがございます。
抹茶を出されたことを記憶しております。
そして、どういう話の流れか、家宝とされている日本刀を目撃したのです。
オノ家の錆刀とは違い、鈍い白さをしずめた、息をすることも苦しいほどの刀でございました。

最後に、ご婦人をみたのはいつだったか。
片目が白く濁り、背をかがめた灰色のカラスを連想させる姿にやつしておりました。
それでも挨拶をしましたら、
「いつでも遊びにいらっしゃい」
もつれた舌の底からそう言い、大儀そうに坂道を登ってゆかれたのでした。

塀を巡りましたら、御殿様のお屋敷はあとかたもなく、夏草が茫々と、やはりうなだれておるばかりでございました。

お嬢様がおられました。

私メより四つ年上だったかとおもいます。
子供会の行事で、私メの家に集まった際、どういう成り行きか、かくれんぼうをしたみたいです。なぜなら、お嬢様とふたりで納屋の隅置き場に隠れていたからです。小学生一年か二年あたりです。

「誰にも言わないでね」
お嬢様は私メの目をみて、花柄のスカートたくし上げると、するりとズロースをおろしたのでございます。
こーなっているのよというように、お桃ちゃんを剥いて見せてくれました。
「ほんとうに誰にもしゃべっちゃダメだからね」

すでに、私メは薫ちゃんという幼馴染のお桃ちゃんも、たまに遊びに来る浅黒い由美ちゃんのお桃ちゃんも定期的に見せてもらって、ある意味慣れてはいたのですが、
「お金持ちのお嬢様のお桃ちゃんは美しいものだ」
と、心を打たれましたです。

その後、ずいぶんしてから母から、「お嬢様は出戻ったらしい」と聞かされました。
そしてお屋敷には戻れずに、「でも近くに家を借りているよーだ」とも耳にしました。

また時がたち、こーしてお屋敷の廃墟に、まぶしく咲いている百日紅の花を眺めていますと、まっしろいお桃ちゃんの剥き出された淡い赤が思い出されるのでございます。

四柱推命のテキストをチェックしていて、そのお嬢様の命式を目にしました。
麗しいほどの従殺格でございます。
従殺格は、幸運と生命を交換している危うさがございます。