04.12
占いという職業は、すべてが資料となるのであります。
自分の成功も失敗も、裏切ったり裏切られたりする体験も、怪我や病気も、まるごと役立つ仕事でございます。
とりわけ失恋などはダイレクトに、たとえば断易で出た卦とマッチングさせ、生々しいほどに、お客様の悩みを再現することが可能であります。
愛犬のロメオと寝ころびながら、先日の日曜日、スクールを終え、バッグを背負い地下鉄の入り口にさしかかったあたりで、二人の男女が無言で赤信号で立ち止まっている光景を思い出しておりました。
赤信号の前には、二人の他に数人がおりましたが、二人を意識したのは、なにやらただならぬ気配を二人が放っていたからかもしれません。
お女性は、とても低い声で、
「いつも、こうして終わるのね…」
低いのですが、特別の感情がはいっているのか、その声は、私メの鼓膜に、妙に粘りついたのでございます。
男は、
「ああ」
と、だけ。
通り過ぎたので、あとの会話は分かりません。
が、いつもこうしておわるのね。ああ。いつもこうしておわるのね。ああ。いつもこうしておわるのね。こうして終わるのね。こうして。こうして。こうして。終わるのね。おわるのね。
東西線で東京駅に出て東海道線に乗り換えても、二人の会話が頭蓋のおくで繰り返すのでございました。
あきらかに愛がつきあたりに来てしまった二人でありましょう。
何を言っても、どう説明しようとも、相手の心に届かないのです。何を言っても、何を語られても、嘘にしか聞こえない。言葉の限界を知ったことでございましょう。
恋というモノは外圧には強く、反対されればされるほど強固に結束する半面、内部崩壊にはバカに脆い性質なのでございます。
たったひと言で、「えっ?」と相手を疑い、その疑いが蓄積され、水位を超えた時、いっきに別れへと、二人の時間を押し流すのでございます。そういうときは、いくつかの悪い運が集中することも特徴であります。
しかし、こういう光景が占いという仕事にはいたく役立つのでございます。
街は資料館と申せますです。