2022
04.22

やはり蘭丸さまは、どこにもいないのでありました。

今回は、方位のこともあり、
「もしや…」
期待は無駄だったよーでございます。

面影は、思い出そうとすれば、遠のき、火にくべられた写真のよーに、みるみるぼやけてしまうのでございます。

ジェンダーの蘭丸さまの、他人がみれば、
「あの女のどこがイイのだ?」
首を傾げてとうぜんでありましょー。
貧弱な身体。髪の毛を無造作にうしろで一つに束ね、化粧気もなく、コンビニで影のよーに働いているだけ。

が、熱っぽく盗み見る私メをとらえ、
「なによぅ」
と挑むよーな表情に、そのときだけ少年の正義感と、少女の恥らいとが混ざり合うのであります。
なおも、視線を外せないでいる私メを無視した時の、ある種の怯えが、まるでおいつめられた痩せた小鳥を思わせるのであります。

しゃがんで棚に商品を揃えている時などは、抱えているのは商品ではなく、自分の罪悪を棚に置きならべている気がしてなりません。
自らのペニスを弄び自涜の習癖をつづけてしまう罪悪という石を積みかさるねよーに。

なんど、その背後から、抱きしめたかったことか。
耳朶を真っ赤にうるけるほど口に含みたかったことか。

そして、横抱えにして、屋敷のバスルームで全身を洗ってあげたかったことか。
膝まずき、バスタブのヘリに座らせた蘭丸さまの足の指の爪を切ってあげたかったことか。
仰向いた蘭丸さまの髪の毛をシャンプーし、白い百合の花を挿してあげたい。
顎の骨のかたちを、舌でなぞりたい。

そして、首を絞め、冷凍庫で眠らせたい。
もちろん一人きりではないよ、私メもいっしょに横たわるから。

いけない、いけない。
その橋を渡ってはいけないのだ。

川のせせらぎも、鳥の囀りも、風の重さも、聞こえず、気づいたら私メは、古い崩れかけた橋のそばで、古い崩れかけた、古い崩れかけた、古い崩れかけた橋のそばで青空を映した川面を、川面を、川面を、かわもを見下ろしているのでございました。