2022
12.13

羨ましいおふたりなのでありました。
時が溶けてしまうよーな、夢の二分の一の一体感を、いま、このふたりは共有しているのでありましょー。

恋とは、じつに麻薬でございます。
奇跡としか思えない偶然がいくつか重なるのも、恋の特徴でございます。
「もしも、あの時…」
きっと、ふたりは出会いの交錯に至るまでの奇跡の数々を語り合っては、運命というものの存在を賛美しているのです。

たとえ、それが苦しみのはじまりだとしても、恋という名の毒杯を飲み干さずにはいられないのであります。星々は自分たちのために瞬き、朝よ来ないでと祈っているに違いありません。

50年後…。
すぐに歳月の経過を考えてしまうのは、私メがそうとうに老いてしまっているからに他ありません。
ふたりが別れても、一緒になったとしても、歳月という悪魔ははむごく忍び寄るのでございます。
皺ぶいた瞼の奥にしずんだ瞳の光に、まだ若さの残光がわずかに仄んでいたとしても。

前の座席で熱い情熱の気体に包まれているふたりを盗み見しながら、私メも目を閉じて、過ぎ去った自分の影を追うのでありました。けれど、追想は途切れ、或る一瞬を切り取った風景しか蘇らないのであります。

恥ずかしながら、
「もう一度…」
せつない苦しみを、あの苦しいけれど甘い痛みをともなう熱い気体を胸に詰まらせたい。
そして軽蔑されたい。叱られたい。傷つけられたい。
そのたびに、ごめん、ごめんなさいと背中を丸めたい。

けれど、もはや心の皮膚は分厚く、カッターナイフで傷つけても血すらながれません。
お女性を見た瞬間に、どのよーに発展し、どのよーに終結してしまうのか見えてしまうのであります。
老いのためか、占いの弊害なのか。

しょせん、求めているのは、愛とか恋ではなく、若かった自分自身に会いたいだけなのでありますです。

前のふたりよ、どーぞ永遠に。