02.15
落城寸前のジムでございます。
棲まなくなった家屋は荒廃すると言われておりますが、すでに、その荒廃が破れた天井から見て取ることができるのであります。
もともと少なかった会員の老人たちは、沈没する船から逃げ出すごとく、もはや訪れる数もまばら。
♫春こうろうの花の宴~めぐる杯かげさして♫
幼き頃、モリオカの実家には、多くの人たちが訪れ、昼間から宴会がたけなわでございました。私メは縁側で、どっとおきる笑い声だの、盃がふれあう音を聞きながら、いつしかこの屋敷には私一人が残るのだろーと予感しておったのであります。
予感はほとんど、そのとおりになりつつあり、「これでイイのだ」と深く感じ入るのでございます。
家を意識することが、これほどまでとは自分でも意外なのであります。
スポーツジムも三代目にして滅びるのでして、では最後まで付き合おうと、落城とともにする敗者の側の心境でございます。
最後の友のサイトウも三代目で老舗をつぶし、再興しようとして、みずからの命を生命保険というお金にかえました。
♫むかしのひかり、今いずこ~♫
無人のジム。
ひとり汗をかくのは、しかし悪い気分ではございません。
12年前、体調の傾きに気づいた時から通っていたジムでございます。
愛着はございません。
ただ自宅から百メートルという近隣の便利さだけで選んだジムであります。
とうじはトレーナーが何人もいて、けっこう賑やかでございました。
断易で言うならば、月建からも日晨からも助けがなく、元神も伏してしまっている状態といえるでしょーか。旬などとっくに過ぎてしまった、老人の暇つぶしの巣窟。
いや、老人からも見捨てられた沈没ジム。
まことに美しいのであります。
あとは廃墟が待つばかり。
戊辰戦争で、新政府によって取り上げられた城が、夜風になぶられている寂寥感にちかいものに感じ入るばかりでございます。
休囚の父母に玄武が付しているさまでございます。