2023
02.21

関東からモリオカに戻りましたら、一か月のうちに積もった雪に圧倒されたのでございます。
「スキーができるな」
くらいの積もり方でありました。

夕方になると雪雲がたれこめ、思い出したよーに舞いだすのでございます。
耳の良い人なら、雪ひらが上下左右に風になぶられ、最後に地表の白に落ちる瞬間の音を聞くことができるかもです。
どんな音なのだろー。

耳カスが耳の音でガサッと聞こえる、あの音に似てるのだろーか。
それとも、電車で途中下車して別れたお女性が、振り向くとホームで何か伝えよーと口をうごかしているけれど窓ガラスのために聞こえない、あの声みたいなのだろーか。

あるいは、話したいことはたくさんあるのに、もう、話すべきことのなくなった二人のテーブルのコーヒーカップをはさんで沈黙と向き合った声と似ているのかもしれません。

思い出の中で、お女性は何か言いかけて「なんでもない」と首を振る。
「なんでもない」と首を振ってため息をつく。
「なんでもない」と首を振ってため息をついたあとに何か歌のよーなものを口の中で歌う。
なんども、その光景を思い出していたら、苦しさが、こんなに積もった雪になってしまう。

後悔でもなく、うしろめたさでもなく、懐かしさでもなく、無常のよーな思いでございます。

あれから、あのときから、あそこから…
いつしか歳月までもが積もっていくのでございます。

モリオカに来ると、時間という空間が奇妙に回り出すのでありました。