2023
02.24

5月のゴールデンウイークまで、冬期間は通行止めになる山奥に、その秘湯があるのであります。
お願いをして、
「ぜったいに秘密にしてください」
の約束をまもることを条件に、時間をまちあわせ、日没近い県道のゲートを開いてもらったのでございます。

ゲートの向こうは白銀でありました。
雪の白さがちがいます。
俗世間に穢された雪ではなく、まさに純白。

その雪が深くなり、その案内人は、
「ところどころ雪崩てますから、時間がかかりますよ」
雪崩を動詞としてつかう案内人は、まだ30代たらずの若造君でした。

若い頃に、このよーな雪の番人の仕事をして、大丈夫なのであろーか、と心配になりましたが、それは他人事。
へんなことを言って、機嫌を損じられたら、ゲートの外に押し戻されるかもしれません。

いくつかの箇所で雪崩ている個所を注意深く回避しつつ、車は山間にそいながら右に左にカーブをきるのでございました。
そして、隧道をぬけると目的地。

とうぜんお客は私メただひとり。

完全なる貸し切り。

ただ、食事はでないということを知らされておりましたから、リックには事前に、キノコだのお刺身だのがぎっしりと詰め込んでおります。
大量の原酒、ウィスキーの類も、抜かりはございません。

それらを運び上げてからの入浴となるのでございます。

TVもなければ、Wi-Fiも通じないのであります。
かすかに携帯電話だけがアンテナ一本が立っているのでございます。

若造君は、説明をすませると、どこかに消えました。
お客は私メのほかには誰もいないのですから、悪さをしたら、犯人は私メと決まってしまいます。
こういう防犯もありか。

風呂の前に、まずは日本酒を。
谷間の秘湯は、たちまち日が暮れるのでございました。

つづきは、また明日にでも。