2023
04.10

ちかごろは、チェーン店の立ち食い蕎麦…いえいえもうスタンド蕎麦というのでしたね、そういう店が増えて、昔ながらの個人経営の店が絶滅しております。

スタンド蕎麦は、店内も清潔で食券方式で、お釣りがあるないのトラブルもなく、しかも椅子も揃えておりまして、お女性も立ち寄ることが多いのであります。お味も悪くございません。むしろ普通の蕎麦屋より、
「美味しいではないか」
ビックリすることがございます。

けれど、たまに個人経営の立ち食い蕎麦屋をみかけると、入ってみたい衝動にかられ、気づいたときには、
「天ぷらそば」
ぶっきらぼうに注文しているのでございます。

「420円」
といわれて、がま口から500円硬貨と20円を拾い出し、100円のお釣りをうけとり、がっつりと七味唐辛子をふりかけて、首を傾げつつ蕎麦を流しむ、この充実感といったら、昭和生まれのしやわせを感じぜずにはいられないのであります。
そして、意外な人気でカウンターは満員。

奥では手作りのお握りが並べられ、つい、「鮭とタラコのヤツを」と買ってしまうのであります。

おそらく5年後、いや3年後、いやこの夏には存在しない店かもしれません。

正直、蕎麦の味はそれほどでもなく、蕎麦はスーパーで70円ほどでビニールに入って売っているものでして、のびかけているのでございました。
正直、美味いとは申せません。
食ったとたんに、「不味い…」と一瞬、箸を止めてしまいたくなるのでありました。

けれど、これも運命の選択でございます。
選んだ限りは、満喫しなくてはなりません。
だいたいにして立ち食い蕎麦に味を求めるのが間違っているのでございます。邪道であります。
ざっと腹に納めて、食い終えたら速やかに立ち去る。これが立ち食い蕎麦の王道。

神保町の十字路にあった、汁が甘ったるかった立ち食い蕎麦、富山駅の構内にあった、ざらついた蕎麦を出す立ち食い蕎麦、藤沢駅のホームの階段の下にあったぬるすぎる蕎麦の立ち食い蕎麦、新宿駅の構内の立ち食い蕎麦屋では、終電5分前に飛び込み、髪の毛が抜けそーなくらい塩っぱい蕎麦をかきこみましたです。思い出の蕎麦屋は、美味かったためしはほとんどなく、なべて不味かったのであります。

しかし、時間のフィルターに通すと、10年後には美味なる記憶にすり替えられているのでありました。

不運の運命もまたしかり。