07.15
雨月物語は私メの愛読書のひとつであります。
じつは、先月、学生時代の同窓会がありまして参加しました。
二次会でのことであります。
同級生の69歳の老女が、とうじ付き合っていた男子(現在70歳の翁)のとなりに捻じり座り、男の肩に両手でぶらさがるよーにハグしながら、「どーしてだよ?」と詰め寄ったのであります。
2人は、高校時代に、どーやら将来を約束していたとのこと。
「きっと一緒になる」
という男の言葉を信じて、結婚しに、男の住む東京に行ったところ、「まだ早い」と断れたそーであります。
「だって大学二年だったんだから、まだ」
男は私メにひっしで弁解しました。
老婆は、それでも「なんでだよう、約束したじゃんかよぅ」と若者言葉で密着いたします。泣いたみたいに厚化粧がくずれとんでもない形相なのであります。濁った汗が目頭を汚しております。
白と黒のストライプ柄のスカートの膝から下はスケスケのシースルー。ファッションの店しまむらでも売っていないでしょー。艶の失われた、でかい膝頭がのぞいておりました。
雨月物語では、せめて幽霊だけは若い美女でいてくれておりますのに。
が、現実は奥歯につめた銀歯をギラギラとひからせて笑う69歳。ウィックがズレておりますです。お女性でもない、人間でもない、いわば片足組みであります。いるだけで屁臭いかんじの汚染物体。
過去に愛した男にひとめ逢いたさに、恥もプライドもかなぐり捨て同窓会に参加したのでしょー。
70歳の翁は、トイレに立ったまま、這うよう逃げていきましたです。
帰り際、「とんだ、うめず物語だったな」とこっそりと見送りましたです。
翁の名字は梅津だったからであります。
つづいてトイレにはいりましたら、小便がとびちりどろどろに濡れて出来たものではございません。しかし、まだ汚染物体よりはマシ。
老婆は弘田三枝子の「人形の家」をガ鳴っておりました。分厚い皺にたたまれた指に握られたマイクに腐った黄色い唾がひっかかっているのでしょー。
子供がふたりいるそーで、むかしは男を勃起させる魅力があったのかと、その名残の皆無であることが痛ましくもあり、そう想像してしまう自分がおぞましくもあり、老女の無理のある痛いファッションを眺めていたのでした。
失霊の時が迫っていました。お化け屋敷から逃れ、タクシーで帰宅しましたが、下りたところで、こんなこともあるだろうと用意していた「清め塩」を頭から振りかけたことでありました。
かるい吐き気をおぼえました。
「さっさと死んでください、お婆さん」と指で九字を切りました。
愛憎ほど怖ろしゅうものはございませんです、はい。
ドアを閉めるとき、ちらっと流刑地の老母を思い出しました。