2014
03.28
03.28
モリオカはまだ3月なのに妙に暖かいのでございます。
白鳥たちは盗賊のような鳴き声をあげながら旅立ちの時を待っているのでありました。
遠くシベリアへはばたくまで羽を休めているのでしょうか。
しかし、
「まだその時ではない」
という何か予感のようなものがあり、春の日差しを疑っているようでもあります。
まるで不実をつづけた男の改心した演技を信じないお女性のように。
「裏切られてばかりきていたから」
などと責めるように訴える眼差しを向けているようでもあります。
男も、
「この女にはとっくに未練はないさ」
とせせら笑いつつも、最後の濁情を楽しむために、旅の恥はかき捨てというような気持ちで、
「オレが悪かったよ。お前がかけがえのない女だと気づいたんだ」
と心にもない世辞を述べたりするのでありました。
枝に花が咲いているのではございません。
白鳥の不用な羽毛がひっかかっているにすぎませんです。
偽りの花とでも申せましょう。
私メが郷里を離れたのは40年ほど前の3月31日。吹雪でありました。
8年前の亡父の手術の日も吹雪で、やはり3月30日。
暖かくてもまだまだ油断はできないモリオカの春でございます。
本当の春の日差しではない。
束の間の陽気に騙されてはいけないと、湖面に砕ける日差しを見て見ぬそぶりをしているかのような渡り鳥なのでありました。
「今年はさぁ、池にね、黒鳥が混じってっるってたっけよ」
と言われて、足を向けたのでありますが、黒鳥の姿はございませんでした。
やっぱりだな…カメラをポケットにしまい、ふたたび古い実家に戻ったのでございます。
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