2011
04.07

どうしてもどうしてもシュークリームを食べたくなる、そんな衝動に襲われたのであります。
この感じ、分かりますよね。

しかし、食べたいからと、そのまま節制もなく口に入れてしまうのは実に惜しいのであります。

発情している時、バケツの水を捨てるようにはやばやと射精するよりは、さらに忍従して快楽をより深く大きなものにしたいような欲張りな気持ちになりまして、シュークリームをむさぼる前に料理をすることにいたしましたのであります。

欲望を圧縮し、極限までねじ伏せることによって、すさまじい優しさが出るのでございますです。
鳥のささみを、叩いてのばし、それにメリケン粉(小麦粉のことであります)をまぶし、揚げるのであります。

相手の女の子をなんどもイカせるようにゆする塩梅であります。
強くなく、さりとて弱くなく、スライムにでもなったように細胞のひとつひとつまで浸透するように執拗に愛するのであります。
愛という言葉が似合わなくなるほどに彼女のカラダから底知れない潮をふきあがらせ声を枯らせ、お下品な音を鳴らせ、そしてこちらも睾丸の奥からとてつもない切ないやさしさが逆流してくるのを実感いたすのであります。

かくしてミラノ風カツレツ風鶏のカツレツが完成いたしたのであります。

キンキンに冷やしたワインで喉を潤すのであります。
あたかも途中で休憩をはさみ肩で息をしながら二人がほほ笑み合うかのように。煙草の火をつけあうかのように…であります。

サクッとナイフがこころよい音を立てて薄い肉を切断していくのであります。
塩せんべいのような歯ごたえと程よい油の加減が口に広がりますです。
バルサミコとオリーブオイルを多めにたらすのであります。それは来るべきシュークリームを口にする時に、その甘さをよりふかく味わうためなのであります。

いよいよその瞬間がせまっているのであります。

私はシューを掴んで
「もう我慢できない!」
と唸るや、おびただしく射精し快楽と不思議な体温変化に見舞われてガクガクと痙攣するような震えに身をまかせる終焉の時みたいに、ついにシュークリームのなかに舌先を突きたてたのでありました。
「うううぉぉぉっ、これを待っていたんだよ」
「ほんとう?」
とシューが尋ねます。
「最高だよ、どんなに苦しかったか分かってるだろう?」
「あたしだって…!」

気づいた時、あれほど欲しがって求めて、そしてその場にたしかに実存してあったはずのシューの姿はあとかたもなく消え去っていたのであります。

ああ、シュークリーム。
また逢いたいのでありました。