2011
08.08

戦後間もない頃には、こういう店があったんだろうなぁと、つい見とれてしまう一軒が、事務所からほどちかい江戸川橋の一画にあるのであります。

午後五時に開店し、15分で、しがない男たちで満員になる、カウンター12席とテーブル席二つばかりの五坪にみたないモツ焼き屋なのであります。

同行のM氏は、働いている奥さんらしき30代後半の薄倖そうなオナゴ殿をみて、
「DVをうけているに違いない」
と嬉しそうに語るのであります。
観察すると、いかにも影か薄いオナゴであります。
小さな頃にサーカス団に売り飛ばされ、そのご九龍の淫売宿ではたらき、その頃に知り合った現在の亭主と密航船で九州にたどりつき、しかし夫の仕事がうまくいかず、日夜殴られ続けながらモツ焼き屋のオカミとして暮らしているような風情であります。
おもいっきり笑ったことのない顔つきであります。

「奥さんのことさらってしまいたい」
M氏は焼酎グラスをかたてにオカミから目を離せないでいるのです。
「サゲマンですよね」
と妄想の恋にピリオドをつけるように、やっと視線をもどすのでありました。

が、恋というものは妄想がおわってからがタイヘンなのであります。

グラスを重ねるうちに酔いがまわってきましたので、煙草をかいに出ました。
煙草は私の場合,悪酔いを防いでくれる薬であるようです。

が、店に戻るとM氏はカウンターについてオカミを口説いているのであります。
「やはりDVされている」
と私に耳打ち。

そういうキズのある女にM氏は弱いようであります。その気持ちは私にも分からなくもありませんです。

モツも極上ですが、ポテトサラダの美味い店でありました。

その後のM氏の恋がどーなったかは分かりません。
いつ、ツブされて、ひそかに串焼きにされるのか、M氏から目の離せない日々であります。