10.31
むかしからの知り合いのMrギムレット氏に、
「とにかくディープな店だから覚悟して」
といざなわれたのが、江戸川橋付近の、この店でありました
いぜんは寿司屋だったなごりが、無常観をさそうのであります。
店内は卓球台ほどの大きさのテーブルがひとつあるきり。
すでに人生をあきらめた老人たちが臭い焼酎をあおっては、世の中に対する悪態をついているのでありました。
新参者らしく、ここは静かに飲むことにして、卓球台の一番隅に鎮座しました。
先生と呼ばれる、40代後半の色白の男が、われわれをチラチラと意識しているのであります。
そいの煮つけを二つ、いかげそわたも二つ。
それから生ガキとイワシの刺身、サラダを注文いたしまして、焼酎をひと瓶。
やや酔ってきたそのとき、信じられぬ美女が入ってきたのでありました。
いっしゅん店内は静まりかえり、老人たちは激しくむせびかえり、色白の先生はメガネのレンズを曇らせ、チンピラ達は焼き鳥の汁をこぼすのでありました。
私メとMrギムレットは、なにしろ新参者でありますから、その美女と男たちの反応に目を奪われるばかり。
と、美女はぷかぁーと煙草をやりはじめました。
チンピラも老人たちも、そして私メもつられて煙草をぷかぁー。
聞くところによると、この店に美女が来るのは年に一度くらいなものらしく、ちょうどその日に我々が来たことは、なにか意味のあることのようでございました。
美女のおかげで、我々はすっかり酩酊するまで、その店に根がはえていたのであります。
値段、ふたりで4200円。
「いまごろ、連中はおれたちの悪口を言ってるよな」
と、私がもつれながらいえば、
Mrギムレットも、
「そいの煮つけなんか喰いやがって、なんてね」
とこたえるのでありました。
女一人のロマンもなかなかでありした。