12.21
「す」のつく食べ物…スキヤキもそうでありますが、いえいえ、寿司をつまんだのであります。
いつもは口にしないモノで統一しました。
なにしろ年末でありますから、オコチャマっぽいものを、あえてそろえたのでございます。
しかし、なかなか旨い。
口のなかでほどけながら、それでいて粘膜にまとわりつくような雲丹。
日本酒をちびりと舐めますと、ご飯が敏感に反応しまして、いつのまにか胃袋へとながれ、口はふたたびニュートラル。
イクラもほとんど口にしないのですが、なにしろ年末、紅白を意識したのであります。
なつかしい幼き頃の好物でしたから、当時、舐めるようにして食った、この赤いダイヤを、まるで復讐するようにひと口にするのであります。
しかし、イクラの美味さに感動するには、やや歳をとりすぎているようであります。
こんなうまいモノがあるのかと妹と奪い合うように食った当時のことを信じることができませぬ。
ああ、バチが当たりそうだと思いつつ、牡丹エビ。
プリンと弾けるような歯ごたえと、ヌターッとした甘さ。
味わいつつも「ふ」のつくのも良かったなぁと、贅沢なことを考えたりするのであります。
「ふ」のつくのはフグであります。
フグは12月が美味いのであります。1月になりますと卵巣の影響で味が落ちるのであります。
赤い絵模様の皿に、薄切りのフグが並べられ、その透明な身にすける皿の朱を愛でつつ食う贅沢さ…いやいや、いまは「す」のつくものでありました。
けれども、私メは赤貝のヒモあたりが好物なのであります。落ち着くのであります。
そしてタコの吸盤とかそういうもので酒をふくむのが幸せなのであります。
とはいいつつも紅白の寿司を堪能した夜なのでありました。
そういえば豪雨の夜に、あるお女性と駅の近くの寿司屋に飛び込んだことがありまして、なんとなく思い出したりしたのであります。
仲間と寿司をつまみつつ会話していたのでありますが、そのお女性の面影がかぶさってきたのは、やはりかなり酩酊した証拠でありましょう。
けれど、そういう追想は悪いモノではございません。
忘れていた初恋に触れたような、いささかむずがゆい気持ちになるのでございます。
そとの、つめたい風がここちよく、もうどこの店にも寄ろうとする気が失せて、ほろ苦い珈琲で胃袋をあらって、そのまま帰宅したのでありました。