01.12
たとえば64階に行こうと思って、それまでは覚えているのにエレベーターに乗った瞬間に、何階だったかを忘れてしまう。
これが私メの習性なのであります。
それで62階とボタンを押し、途中で、
「しまった64階であった」
と気づき、あわててそのボタンを押すのでありますが、時、すでに遅く、1階まで戻ってしまうということが多々あるのであります。
なぜ、エレベーターにはキャンセルボタンがないのであろうか。
そういうドジな人間は皆無だからなのであろうか、などと、ふたたび同じエレベーターに乗り、周囲から「この人はおかしい人ではないか」などと怪訝な顔をされるのでございます。
キャンセルボタンのないエレベーターは、まるで人生のようであると、64階での打ち合わせのあいだ、ずっと哲学に耽るのでありました。
「やり直しのできない人生はない」
と高尚なお方から諭されると、たしかにそうだ、そうでないわけがないと心に勇気を吹き込まれはいたしますけれど、現実の人生は踏み出した一歩でほとんどが決定されるのであります。
いつだったか当ブログでご紹介したこともございますが、以前、漫画家として名をはせた知り合いが、「この仕事は潰しがきかないんだよね」とこぼしたことがございますです。
仕事を失ったというか、依頼の来なくなった漫画家はどうしようもないのであります。
そして、彼は現在、ラーメン屋を営んでおりますです。
ラーメン屋だって大変で、46歳から3年間修業をいたしたということであります。
「あっヤバいぞ!」
と気づいた時、キャンセルボタンのようなものがあれば、再起をもうすこし早くできたかもしれません。
仕事、引っ越し、恋愛、結婚…すべてはエレベーターと同じなのであります。
占っておけばというのは、占いに対する過信ではありますけれど、しかし、占い師というものは、教員や親や僧侶などより、人生パターンを仕事上、よく知っているものであります。
…とは言うものの、エレベーターに乗ったとたんに、何階かを忘れてしまうようでは、その資格がないかもしれませんですけどね。