2012
03.14

税務署の帰りなのであります。
確定申告、そして納税をすましたのであります。

なんの見返りもなく大金が失われ、したがって不機嫌なのでございますです。税務署の被災者なのでございます。

ふと日だまりの空き地に目を投じますと、
「桜?」
が、蕾をふくらましているではありませぬか。

少女のくちびるのような蕾でありました。
ささくれ立った心に沁み入るシャーベットピンクなのでありました。
電車内で、少女の寝入っている、すこし開けたくちびるを眺めるのは危険でありますけれど、花の蕾であれば、誰の目も気にする必要はありません。

若い頃は花など気に止めはしなかったのに、最近は、木々の枝が苦しそうに色づくのさえ心にまばゆいのでございます。

自然に足は、松屋に向けられるのでございました。

食券はもちろん「期間限定、ブタ飯定食」。
何カ月ぶりでありましょうか。
ちょうど昨年も、今頃、被災者を妄想しながら、ブタ飯をつついた記憶がございますです。
「くそっ、税務署め!」などとは、つとめて考えぬようにしまして、先ほどの花の色を思い出しながら、やはり、すべてのドレッシングをぶっかけるのでございました。

黒酢をかけ過ぎたせいかむせるのでござました。
高校のガキがいち早く反応し、笑いをこらえているようす。
するどく睨みつけましたが、黒酢が気管支を刺激し、こらえた分だけひどく咳こみ、飯粒を吹きこぼしてしまうのでありました。

老いるということはこういうことなのでありましょう。

最近は喉飴をしゃぶったたけで、自分の唾液にむせぶのであります。
これではお女性のチクビをふくんだらどうなることかわかりませんです。
ことによると心臓マヒなどという幸せな終焉を迎えられるのではないかとも空想してしまうのでありました。

春爛漫の季節が近いのであります。

なにもかも放り出し、漂泊の旅にでた、大昔の行者の気持ちが、分かりかけるのでございます。

新潟では雪解け水による地崩れ、福島では放射能による立ち入り禁止地区、宮城、岩手では震災後の荒れ地。
自殺という、あの世への避難者が14年連続して三万人超え。累計で42万人でありますですよ。

まさに末世ではありませぬか。
地獄とはこのようなことをいうのでありましょう。
マンガの世界が具現化したのでありますです。

もう春は、今年で見納めになるのではないかという気もいたします。
そして、それならそれでもいいかも…などと思いつつ、苦しくずきずきとふくらんだ少女のくちびりの匂いを求めながら家路につくのでありました。

それにしてもいまいましい税務署さまよ!