2012
04.22

プリプリと弾力のあるよい子袋がございましたので、買っておいたのでありました。

子袋とは子宮だと誤解されやすいのでありますが、卵管なのであります。
この、クネクネした卵管を、先っちょの卵巣から卵子がゆっくりと降りてくるというわけであります。
ブタの卵管ですが、人間のものも同じでありましょう。

転がり落ちた卵子に精子がくっつくと恐怖の妊娠という事態へと展開いたすのは、いうまでもないこと。

モツの煮込みは、子袋が入りますと、いちだんと味が良うございますです。

ひと口大に切り分けまして、そのほかの大腸…いわゆるホルモンとか、ハツ…これは心臓でありますですね。そしてフワ呼ばれる肺臓も加えたのでありました。

料理はいたってシンプル。
臭みをとるために、すりおろしたニンニクと生姜をドバッとかけ、砂糖を大量に投与し、あとは微火にて沸騰するまで煮込むのであります。それに醤油を回し、さらに五分ほど火にかけて完成。

まったくお下品な料理であります。

が、男は突如として、このようなモノを激しく欲するのであります。

「だからスケベなんだね」
と言われたような…えお、あれは遠い昔のことでありました。
この数年は、年甲斐もなくモツをこしらえて食っていることに恥じらいを覚えておりましたから、お女性にご馳走した記憶がないからであります。

誰だっけかなぁ、と思い出して「ありゃ!」とびっくり。
18才あたりまで遡ったからであります。

タッパーにコレを詰めて、お女性の部屋で火にかけましたら「くっさいわぁ」としかめっ面をされましたけれど、一つまみして「これ、いける!」と喜ばれたのでございました。
「いつも、こんなゲテモノ食べてはるん?」
「ということだね」
「だからやわ…」
と会話が続いたのでありました。

しかし、もう、あまり食べられません。
食べ過ぎると胸やけがして、苦しくなるのでありますから。

近所の人を誘いましたら、孫まで総勢五人も連れてきまして「ご飯のおかずになるね」などと、瞬く間に平らげました。

私メは冷酒をちびりちびりとオヤジたちと酌み交わすのでありました。

このモツの煮込みは、亡父から教えられたものであります。
父が死んでは食えなくなるとおもい、生きているうちに真似をして作ったのであります。

そのような食いモノはまだまだあるはずであります。
ラッキョウなどの漬けもの類とか、梅酒などもそうでありますですね。おからもそう。

日ごろのなんでもない味と食い捨てておりますと、その作り手である母とかが亡くなると、二度と口にできなくなるものが、意外に多いのであります。

郷里を喪ったような、たよりない気持ちを抱きつつ、立ち寄った小料理屋のお通しなどに、その味を思いすことが、たまにあるものであります。

味覚というものはセックスと同じく忘れやすいのが特徴。
美味いとか持ち良いという観念は覚えていても、どういうような快感だったかは思い出すことに苦労いたします。

たまには自分で料理をすることは正しいのであります。
きっとその味の基本には、なつかしい幼い記憶が混じっているのでありますから。