2012
11.04

今年は鮭があまり獲れないらしく、なかばあきらめておったのでありますが、魚屋をのぞいたら、さりげなく置いてありました。

鮭の白子であります。

私メは基本的に、大辛口の鮭の切り身、それもエラのあたりと、筋子があれば、それでもうオカズは十分なタチでありますけれど、秋になると白子が恋しくなるのであります。

「どーしているかな?」
と、夏の間は思い出すのも暑苦しくて、記憶のそとに追いだしていたお女性を懐かしむのと同じなのでありましょうか。
で、会うと、
「バカなことをした……」
と激しく自己嫌悪するのでありますが、
白子は別であります。

秋が来たことを実感し、ちびりちびりと齧りながら白ワインを口に運ぶのであります。
六十年近くも生きてきますと、もう人間に厭きているわけであります。
しかも占いでいろいろと人間を研究していますと、誰もいないところに隠遁したくなるのでありすです。

しかし、味覚は上手く出来ておりまして、忘れっぽいのでございます。
美味さも忘れますが、不味さも忘れます。
どんなに不味かったか、もういちど試しに行きたい店は、一軒や二軒ではございませんです。

もう一つ、秋に忘れてはならない汁もの。
これが、イカの腑煮でございます。

イカの腑を大根とジャガイモで煮て、味噌仕立てにしたシンプルな、野蛮料理であります。

これがじつに秋に似合うのであります。

残念なことは、二時間以内にすべて藻屑と化してしまうところでありましょうか。
どちらも腸を刺激するようなのであります。
ほれほれ、もう下っ腹がギュルルル~と鳴りだしておりますです。