2013
03.20

男根のような桜の蕾が、幹から勃起していたのでありました。
卑猥さは画像にあるのではなく、画像を見る心の中に存在するのでありましょう。

公園でコンビニの袋に桜の花の花びらをたくさんいれて、女の子の頭上からシャワーのように振りまいている若い男を見かけました。
それは10代の私メだったかもしれませぬ
女の子は期待ほどには喜ばず、無邪気に舞いあがっている私メを諦めたように微笑するのでありました。

半年後には、別の男の子供を孕み、高校を二年で中退する運命であることなど知るすべもありませんでした。
「その男はいったい誰なんだ?」
と行きつけの喫茶店のマスターにといましたが、
「それは言えね」

彼女は私メに、こう言いました。
「最低な男だね」
と、その後、幾人のお女性に、何度も言われ続けてきたお褒めの言葉が、初めて言われた別れの言葉でありました。

これ以上は出来ないほどのやさしい態度を、彼女に取っていたのに、、どういうわけで「最低な男」となるのかを知るのは、10年以上の歳月が必要でありましたけれど、彼女を孕ませ、そして籍を入れた男に対しての敗北感は、すでに自覚しておったのでありました。

それからの彼女の行方は分かりませぬ。
あれほど恋い焦がれ、想わぬ日はなかったのに、いつの間にか日々の濁情に忘れてしまっているのでございました。

それでも、野に花が咲き始めると、遠い痛みがよみがえりますです。
「雪の女王」によって瞳に氷の欠片をいれられた少年カイのように、大切な何かが思い出されたような気持ちになるのでございます。

ああ、アリが花々の匂いに酔ったように這いだしておりますです。
冬のぶり返しがきたらどーするのでありましょうか。

あまりにも華やかな10代を送ってしまうと、その後の10数年は、過去の光に滅ぼされるものであります。

彼女の、そしてその子供の、そのあとの運命を妄想するばかりでありますです。
誕生日を記録しておりましたから、調べると、やはり「桃花殺」がいくつもいくつも付され、官殺混雑という、ロクでもない男に弄ばれるという命式でありました。

「最低の男」と口にしたのは、あるいは彼女も初めてで、それをカワきりに、いままで何回もいろんな男に浴びせたかも分かりませんです。

では、最高の男がこの世に存在するのでありましょうか。
存在したとして、最高の男のどこが楽しいのでありましょうか。

いやいや自分を正当化しようとしているのではありませぬ。

ただ、こんなにも早く春が来て、次の季節をどのように期待して待てばいいのかと…そこが案じられただけでありますです。

うららかな春の陽光に復讐するかのように、午後からは修羅のような風か渦巻いているのでありますです。

「ある日、ある人と愛して、ある日ある人と別れて、大人になる」という歌詞の昔のTVドラマの主題歌が風の向こうから幻聴されたのでありました。