2013
12.16

月はおぼろ。
満月前夜に届けられた発泡スチロールには、画像の如き毛ガニが数杯、鎮座しておりました。

お礼の電話をしましたところ、「冷凍じゃないからはやく食べて」とのこと。

目を金色に光らせて貪ることにシタしたのであります。

禁欲している私メではあるまいかと思うほど肉をためこんでいるのか、ずっしりと手に重たいのでございます。

甲羅をメリメリとあけましたら味噌がたっぷり。指について、舐めるとそこは北海道の荒波の逆巻く夜の漁船に乗り込んでいるかの錯覚におちいるのでありました。

「飲み屋のよう、女がよう」
とゴムガッバの荒くれ者の怒鳴り声も波しぶきと風でちぎれてとどきませぬ。
手は赤く凍みつき、しかし、あと六時間もすればアパートで女の太ももにあてがっているだろうと、それを心の救いに、甲板に転がった毛ガニをひとまとめに水槽にいれるのであります。
髪の毛も白く凍り、吐息も白く、ああ小便をしたいと尿意に耐えるのでありました。

ポルシェのボンネットからライトへとつづく、お女性のまさにふともものようなラインに似た毛ガニの脚。
身が重たく詰まっているのでございます。

切り離すたびに甲羅が指に痛く、それを我慢しながら切り分けるのも楽しいひと時であります。

色々迷いましたけれど、最終的には冷やの日本酒にすることに決断し、そしてカニ肉をすするとき、何故か過ぎ去りしお女性たちの名前をひとつひとつ上から下まで読み上げたい衝動に駆られるのでございました。

が、それも五人ほどで根気がつづかず、ベーゼとは異なる吸音を立てながら無心に白い身を口へと運ぶのみ。
一杯で満腹。

美味しすぎて何やら罪悪感すら覚える夜でありました。
もう月を眺める気持ちにもなれませぬ。