2016
04.20

『朝ぼらけ有明の月と見るまでに
吉野の里に降れる白雪』
ーーほのぼのと夜が明ける頃、明け方の月光かと見間違えるほどに吉野の里に白雪が降り積もって眩しいばかりであることよーー

これが学者の解釈であります。
ひとつも面白くない訳でありますです。

酔っ払って目を覚ますと、いつもの部屋とは趣が違うことに男は気づくのであります。周囲に視線を転じると、おぼろげにそこがラブホの一室であることにきづきます。
「そうか…」男の記憶はしだいにハッキリしてまいります。
昨晩、お女性とワインを飲んでいるうちに終電の時間が過ぎてしまい、タクシーで新宿裏のラブホにタクシーで向かったんだっけ…。

ハッとして布団を剥ぐと、お女性が芋虫のように丸まって眠っております。光の射さない漆黒の部屋の中で、雪のような白い肌が仄白くぬめっているのであります。
いつものお女性と異なる匂いや艶。
男はそっと手のひらを伸ばするのでありましょうか。

「なぁに」
とお女性は薄目をニヤリとあけます。
〈ああ、危なかった〉と男。〈あぶなくいつもの女の名前を呼ぶところだった…〉

この情景を詠んだ歌が、コレなのであります。

男はそれから飲みさしのペットボトルをお女性に手渡します。
お女性はそれの意味が分かり、ひと口口臭止めとして口に含んでから
「トイレ行ってくるね」なんて言うのでありましょう。
が、男はお女性のふくよかな二の腕をグイッと掴んで引寄せるのでありましょう。
「ダメだったら、オシッコしたいのに」

と有明のひと突きがスタートするというワケであります。
やがて白雪を降らせることになるのは、夜明けのお女性から恥じらいが消え、髪を蛇のように男の胸に躍らせながら、おどろくほどの積極性を示し、男の忍耐を奪うからでございましょう。