2017
01.23

部屋にロメオが来たのでドアを開けると簡易ベッドのセーターにもぐりこんでうたた寝を。

そのかたわらで私メは仕事を続けるのでありました。
窓外は思い出したかのように雪片が舞い、暗いシャンソンが暖かく渦巻いておりました。

こういう日々を、いつかたまらなく懐かしく思い出すのであろうなぁ、と、ふと彼女はどーしているのかと、まるで、魚が水面に顔を出したように頭に浮かんだのであります。

そこは仄暗いワインバーで、彼女の指が私メの腕に重なります。私メは、その指を右手でつつむように「ひゃっこい」というのであります。

なんども同じ断章が脳裏を転がり、また、彼女は冷たい手で、私メの腕に。ピアノの鍵盤に指をおくように。まるで、これからせつない曲を弾きだすかのように。そして、あなたはこの曲の終わりを知っているのでしょうと語りかけるようにように。ならば、限られた時間をゆっくりと演奏しましょうとためらうようにようにように。同じ想い出は、ブランディーがグラスの中で揺れるごとく途切れることはないのであります。

別の記憶に、たとえば坂道のくぼみでかわしたkissや、テーブルにこぼしたワインの赤い滴だのに切り替えようとするのでありますが、また冷たい指が私メの腕に感じられるのであります。寒い国から戻り着いたばかりの少女みたいに。

あれはいつのことだったのか。

やがて四柱推命の「解錠録」のテキストは完成し、断易の奥伝のテキスト作りに移るのでございましょう。遁甲の造作のテキストも残っております。

ロメオは目を閉じ、雪は舞い、シャンソンは旋律をなぞり、冷たい指がそっとかさねられますです。黒い瞳孔をうるまして。