2017
03.01

観光客の絶えた小岩井農場の食堂に、その小男はいたのであります。
まるで都会のレストランのお客様のよーに。

食堂の端に、騙されて連れてこられた中国の団体客が暇そーに雪景色を見ている他は、食堂にいるのは私メと老母のみ。

不味いラム肉を出されて途方に暮れておりました。

が、その小男は背筋を極限まで伸ばすという正しすぎる姿勢を保ち、メニューを眺め、やがてフルコースを頼んだのであります。

「後悔するからやめろ!」と止めたかったのでありましたが、私メの行動は、彼を隠し撮りすることでございました。

どーしたのだろーか。と、私メはもう、彼から目を離すことは出来ないのでありました。

小岩井に仕事で来たのであろうか。ならば最低の接待があってもしかるべきなのに、小男は別に誰かを待つ風情もございません。

職場にいたたまれず、一人ランチをしようとしているのか。しかし、小岩井付近に彼のような男が勤める会社はなく、あったとしてもわざわざ車で来るほどの近さではありませぬ。

TVの撮影でもなさそーでございました。

運ばれたビーフシチューらしき食い物を、正統なマナーで口に運ぶのでございます。英吉利紳士の如しでございます。

もしかするとオバケだったのかもしれませぬ。

最後は紅茶を受け皿を左手に持ち、やや小指を立て気味に優雅にスプーンを回しておるのであります。

テーブルクロスもない、中央に焼き肉用のコンロが置いている食堂で、肩ひじをつきながら肉をほおばるのが自然な食堂なのでございます。

「美味くねんでね、肉固でくで入れ歯がぶっかけるくれだ」
と老母。

最後まで相棒の反町隆史はあらわれず、Mr右京の介クンは、器用にビニールを裂いてお手拭きを取り出し、口元を押さえて、去っていくのでありました。

運の障害者の一人であることは確かでございます。