2017
03.02

実家では夜の8時になると、もう老母は寝てしまい、家は森閑となるのであります。

以前であれば、夜の街に向かったものでしたが、夏に最後の友人を亡くしてからは、そういう気持ちにもなれず、家の中の書物を肴に、洋酒をヤルのでございます。

素面ではダメでも、酔うと頭に入る本もあるのでございます。
記憶できるかどーかは別の話であります。

が、面白いのは、そのまま寝入ると、不思議な夢を見るという点でございましょうか。
夢のメカニズムがどーなっているかは分かりませぬが、難しい書物を目にした後の夢は、バカにエロチックなのでございます。

目覚めたとき、となりのお女性を虚しく手探るのでありますが、「ああ、夢だったか」と納得するまでに、しばしの時間が必要になりますです。が、指先には柔らかな肌の感触が残っておりまして、その指の傍らには小難しい書物。

目的を達成する時、その目標を考えているうちは容易に達成することは出来ないのと同じかもしれません。私メだけかと思っておりましたが、どうやら、それは案外、多くの皆様にも共通した開運の条件ではないかと、最近になって気がつきましたです。

「絶対に、アレを達成してやる」と意気込んでいては、まず無理なのであります。
「どーでもいいや」と諦めかけた時、あれほど困難だった目的が容易く叶うものでございます。
難しい書物を読むと、エロな夢を見られるように。

洋酒をボトルごと呷りながら、私メは打ち始めたメールを消すのでございます。積極的に自分が動けば、それは叶わないという断易の原則を思い出して。
酔いのためにグラつきかけた頭を、目を閉じて、つまりメールからも書物からも切り離し、目を閉じたとき、遠く神楽坂のワインバーの、ワイングラスに透ける赤い指先の動きが見えるのでございます。
すでに夢に入りかけているのかもしれませんです。