05.23
オノ家には代々かかる病気がありまして、それは「怒り病」なのであります。
目に見えるモノ、耳にするモノのすべてに激しい憎悪と激怒を感じる病気であります。
亡き祖父も亡父もそうでありました。
なぜ、いつも怒っているのかと不思議でたまりませんでしたが、私メもどーやらそういう年齢に達した模様であります。
ささいなひと言で、気分を害し、丸一日不機嫌に沈むこともございます。
お前も裏切るつもりだな、それならその罪がいかなるものかを、じっくりと味わってもらおう。黒い炎が心にともり、いかなる手段なら相手を絶望させ、自殺に追い込めるかを考えるのでございます。
忠告も否定もアドバイスもアイディアも認めませぬ。
イエス以外の答えは求めてはいないのであります。
病気でありますから仕方ございません。治そうとも思いませんし、自分より年の若い小生意気な小僧医者にかかるつもりも、年上のクソ爺の医者に診てもらうつもりも毛頭ございませぬ。
周囲の奴らが、私メを気遣えばイイことなのだと、敢然と胸を張って、居直るしかないのであります。
とにかく何もかもが癪に障る材料なのであります。
スポーツ選手がどーのこうのというキャスターも、その選手も、またそれらを応援している国民にも脳血管が切れそーなほどの怒りが噴き出すのであります。
新聞など腹の立つことばかり。
とくに読者の投稿欄には殺意すら覚えるのであります。
なになに、75歳の無職のくたばりそこないが「平和だと!」「政治だと!」と、年寄りを集めて連帯責任とばかり、かたっ端からやっつけてやりたくなるのでありました。
ということですので心が安らぐひまがごさいません。
ぶらぶらと街をぶらつき、しがないデパートにはいり、エスカレーターで目的もなく上に行き、食堂に入るのであります。
その食堂では定期的に、ご当地ラーメンをやっていまして、その日は「佐野ラーメン」。
食っているうちは病から逃れられるのでありますが、佐野といえば栃木県。栃木といえば宇野宮。宇都宮といえば…。
ずいぶん昔、宇都宮に鑑定に出かけた時、その家の飼い犬に、足の踵をガブリとされ、靴下に穴をあけられたことを想い出したのであります。
むかむかむかーっ!
いい年をした日本人俳優が悪人顔で刀で切られたりする演技をいたしますが、私メも、踵に開けられたソックスの穴を思い出し、思いっきり悪人顔で佐野ラーメンをすするのでありました。
オバちゃん女給が不思議そーに私メを見ているのでございます。