2017
09.20

口の中で甘い汁が飛び散るのでございます。

葡萄は不思議な果実であります。

大気から残っている熱気が去れば、それは秋の深まりを告げ、そーなると葡萄はいささか寒く感じられますです。

ああ、はやく涼しくなればイイのにと、水道水で葡萄の実を洗いながら思う、その思う時も秋なのてあります。

2001年だと記憶しておりますが、2000年だったかもしれません。
名古屋の大雨で東海道新幹線が二日間ほどストップし、京都に足止めされていた私メは、よーやく走り出した車両に乗り込み、編集員から手渡された葡萄を口につまんでおりました。

或る社務所で無理やりのよーに売りつけられた本をめくっており、奥付に記された著者のメールアドレスに連絡をしたことも、葡萄の甘みのためだったかもしれませぬ。

その著者と連絡が付いたところから、携帯占いサイトへと仕事が発展していったのでありますが、いまはどこでどーしているのやら。

その当時、携帯占いサイトに群がる業者は雨後の竹の子みたいに多かったのでございます。
「オノさんはお人好しだ」
なにしろ関西から借金したお金を握り、一旗当てよーとギラついた眼で上京する野心家たちでいっぱいでありました。
著者が連れてきたお方も、ソレでありました。

お人好しの私メが生き残り、すべては消えてしまったというのが大げさではなく本当の話であります。裏切られ、没落し、破産していったのでありました。

「十傳さん、今回の支払いを待ってもらえまへんやろか」
締め切りも約束も、支払いもキレイですが、請求に対しても残酷なほどキレイである私メは、おやおやと笑顔をつくり、

「それではサイトから手を引かせてもらいましょうか、お人好しですから」

独立してから、なんどかのミスを繰り返すうちに、いつしか商人になっていたのでありましょう。

大阪のビジネスマンは、テーブルの葡萄を食い散らかしながら、
「ほんなワガママ言ってたら大変なことになりまっせ」
脅しは通用いたしませぬ。

葡萄をついばむと、あの頃の匂いや空気の重さなどがリアルに懐かしくなるのであります。