2017
10.26

日の暮れのごとき湖にも人影は絶え、
「死のーよ」
波打つ声が聞こえるのでありました。

前日の雪が凍てつき「堕ちるところまで堕ちたのだ」の亡父の言葉がリフレインされるのでございました。

クルマは泥だらけ、ワイパーで拭き取ったウィンドウも曇っているのでございます。

FM局の電波も通じませぬ。

この地で、夜ともなると男衆がたむろする居酒屋がありまして、
「早稲田大学の頃は…」とか「東京生まれなんだよね」とか「シティーボーイだったんだよね」とか「中学まではIQ高かったんだよね」など過去を懐かしむ言葉が飛び交い、
「が、つまりは左遷組なのだよ」
結論はそこなのであり、「まだ分からぬ」者どもなのでございました。

「たたき上げかなんだか知らないけどさ、高卒の工場長にこき使われてるんですよ」
本音が出始めるのでございました。

水たまりに映った太陽。偽りの希望なのであります。

「死ね、死ね、死ね!」
と怒鳴れば、すこしはスッキリするよ。
しかし、やがては深い沈黙。

「木村さんだっけ、あんたはイイよなぁ」(旅先ではキムラで通す私メであります)
健康とかをみずから破壊するよーに、煙草をまかまかと吸っては煙を鼻の穴から吐き出しているのであります。
「健康など、未来が約束された奴らが気遣えばイイんだ」
とでも言うよーに。
どうみても、ふたたび都会に返り咲く人相ではない面々なのでございます。それでも上司にへいこらする日々。出来ないだろうが、明日、上司の禿げ頭を手のひらで面白いのであります。いまから繰り出し、上司の口に如雨露をつっこみ、サントリーレッドを無理やり飲ませても趣がございましょう。末期癌の腹水を静脈に注射してもイイのであります。
「はぁ~」
そこまでは憎めないご様子。
シシャモを出されましたけれど、私メの足には、とてもイケナイ食い物なのでございます。
では、自分に未来はあるのか。
あるよーで、じつはありませぬ。
夜中に足が痛みだすことを覚悟して、
「脱げ~!」
気合もろとも胃に落とすのでございました。

飯を食った後の茶碗酒もぐびぐび。

野鳥のムダに羽ばたく物音がするほか何も聞こえませぬ。
酔眼で地図を前に、明日の目的地に迷ってばかりいるのでありました。

アーメン、左遷組よ。
汝らに次なる勇気と気休めの言葉を授けよう。
「絶望、絶望、絶望!」
の二文字を。