07.05
それでなくても大きすぎる屋敷なのであり、増築は完全なる無駄だと自覚しておるのであります。老母がひとりで住んでいるのでありますし。
高級外車を購入するのとほとんど等しい感覚なのでありました。
完成すれば、屋敷の北西側が張り出す外観となり、いわゆる乾張り。
乾張りのキーワード「一世一代」の家となるのでございます。
強気で押していく性格になるわけであります。
昭和15年に祖父がモリオカに越してきたときは、西の欠けの屋敷でありました。
西の欠けは大問題でございます。
事実、その通りのことが起こりました。
祖父の娘、つまり私メのオバたち5人は、ことごとく西の欠けの犠牲者となり、不幸な婚姻という結果となったのでございます。
その後、妹まで、この西の欠けの悪影響が忍び寄りまして、そこで父が改築に踏み切り、欠けの部分に部屋を作り、ギリギリのところで妹は不幸から免れたのでございました。
家というものは生き物であります。
ダメ女房、バカ亭主にあたってしまった以上の不幸な生活を強いられるのと反対に、良い家相の家は、運勢がトントン拍子に進むことは経験上、肌身に沁みておりますです。
うら若いお女性には乾張りの家はお勧めできませぬが、事業家ならば乾張りは成功の絶対条件なのでございます。
乾に欠けのあるお家では事業が成功するはずはなく、衰退の一途をたどるばかり。
「オノさんのお仕事を知ってしまいました」
設計をしてくれるSさんはおそるおそる切り出しました。
「ならば話は早い。そーです。普通の家を建てる頭を切り捨ててください」
階段は広めにとってくだされ。
やがて母屋もお願いしますから、そこを念頭にグレードを決めてくだされ。
無駄な空間こそ大切です。
などなど。
今年のうちに着工となるのかどうか。
開運増築の計画はなんとなくウキウキするものがございますです。