2018
11.01

秋の夕暮れに、その鏡はいささか淋しそーなのであります。
幾人もの人を、おののかせた罰なのか、ないまでは納戸の隅に追いやられ、四柱推命的に申せば、孤独の命。

そして、一週間後には廃品回収に出されるオバケ鏡。
老母の嫁入り道具の一つらしいのであります。ですから老母が若き頃は、この鏡に我が身をうつし化粧をしたことでありましよう。

オノ家の亡霊を鏡面にうつし出させた鏡でありますが、肝心の私メたけが、まだオバケを見たことがないのであります。

ある人は、和服姿の女が鏡の右から左へと過ぎていったと言い、ある人は、おかっぱの女の子が走り去ったと言い、ある人は、白い服を着た復員兵だったといい、ある人は、死んだ姉だったと言い、さまざまで、それも夜だけでなく真昼に見たともいうのでありました。

「お前も見ているはずだ」
と叔父に指さされましたが、その叔父も先月死に、入れ替わる如く、その叔父の臍の緒も出てまいりましたから、鏡に魂があるのではなく、オノ家の家に魔物が棲みついていても、それがある角度で鏡に映し出されるのかもしれませぬ。

そーいえば、福山の駅で、上空にUFOを目撃したことがございます。
前の事務所の屋上で、室外機に座っている女占い師の幽霊を見たこともございます。

見たという事実は事実として記憶しているのに、それがUFOだと、幽霊だと認識できませぬ。脳みそがもそれらの事実を認めることを拒んでいるのであります。

悪いお女性に肉体が耽溺しているのに、
「惚れている」
と認めたくないのと同じかもしれませんです。

いずれにせよ、実家から貴重な遺産が消えるのでありました。