2019
02.20
02.20
雪の少なかったモリオカの冬も終わりを告げているのであります。
雨が森を呼び起こしているかのようでございました。
春になると、若者は活動力をしめし、老者は、またひとつ老いるのでございます。
雪は暈を減じ、初冬に降る清らかな雪ではございません。
泥にまみれてしまった残骸でしかございませんです。
「さよなら」
と去っていった少女が振り返ると、縮緬皴の浮いた老女になってしまっているかのよーに。
くたびれた笑顔からはゴムまりの弾力が失せ、「あとすこしで桜が咲くね」と言われても、桜の花ではなく老木の黒い幹でもあるみたいに。
トリカブトが欲しくなってまいりました。
老母から、私メと同年齢の近所の人たちが、
「死んだよ」
と聞かされ、うらやましくもあるのでありました。
春は忘れられる季節なのであります。
希望に胸を膨らます人々がいれば、その膨らんだ分だけ凹む人たちもいるのでございます。
そして、希望がやがて空虚なしやわせであったことを知って、次の世代へと絶望の種子は開花していくのであります。
花は咲くことが目的ではなく、目的のための手段であり、目的を終えれば散るさだめであると、誰しもご承知なのに、それでも、今度こそはと開花を待つのでありましょうか。
手のひらに、確実に存在したと思っていた乳房が、お尻が、つややかなお腹が、火葬場の灰と化すわけでありまして、その恐ろしい速度は老いてみなければ分かりませぬ。
市内に戻り、川徳デパートの地下で買い物をしました。
エレベータに同乗した老嬢の顔にかつての美貌の灰がまぶされていました。
「何階ですか?」
おもわず聞いてしまいましたです。