04.25
春の日差しを感じ取ったハクチョウは群れをなしてシベリアに帰ったのでありました。
が、帰り忘れたハクチョウがここに。
引きこもりのような存在でありましょうか。
慌てた様子もなく、のん気にカラスと戯れておりました。
不思議なことがございました。
東日本の大震災で母親に死なれたあと9年間、自室に引きこもっていた16歳になる少女から、
「家を出たい」
この連絡があったのであります。
従弟の娘でございます。
3年前に法事で会ったとき、こっそりお小遣いをあげたさいに生年月日を聞き出しまして、
「けっこう強いな。引きこもりも意志力のたまものだね」
と失言したことを思い出しました。
叔母からは、十傳事務所で働かせてくれない? と頼まれましたが丁重にお断りしたのであります。生年月日ではなく、その美貌の行く末に、私メの自信が持てなかったからだとしておきましょう。
「家を出たい」
などの発言は、彼女だけでなく、中国人がもたらした新型肺炎の蔓延と比例し、多くの引きこもりとされている方々にみられる現象であります。
環境の変化によって、それまで問題とされていた方々が、いまや「飛び立ち活躍する時だ」と無意識に何者かに突き動かされているのかもでございます。
ツテを頼り、全寮制の或る医学系の専門学校に入ることができました。
中学には一日も登校していないのが心配ではありますが、
旧友も、
「だいじょうぶ、大丈夫」
と笑顔でうなづくし、ガンコな生年月日の持ち主です。ダメならダメで引きこもりに戻ればいいこと。
「おじさん…」
クルマの助手席のセーフティベルトを胸をさらすようにして外した彼女は、案の定、身震いするほどの美貌に脱皮しつつあるのでありました。
なにか告げたかったのか。
聞こえませんでしたが、角を曲がるまでサイドミラーに手を振る姿が見えておりましたです。
飛べないハクチョウは私メかもしれませぬ。
いえ、飛べないのではなく、飛べなくなったというのが正解でありましょう。
すべての人たちは、いやいや、すべての物体はなにかの使命を背負ってこの世にいるのであります。
その使命を果たす時があるかどうかは別として。
あたかも断易で、官鬼という嫌われ者の六親が伏さず動かずにジッと存在することで、貧乏星の兄弟という六親を抑えているような感じでありましょうか。
では、私に与えられている使命とは。
それは誰にも分らないのであります。