2020
08.03

いろいろなことがあり、すっかり忘れていましたが、いまは夏で、空を仰ぐと、夏の花が光の束にそよいでいるのでありました。

身の回りに疫病の感染者はおらず…なのに人々は厳重にマスクで口を覆いソーシャル・ディスタンシングをしております。

今日は午後の早い時間、散歩をいたしました。

そこで、はじめて夏の花を見上げたというわけです。

キャベツ300円。
ネギ200円
レタス290円。

それら買い物をナップサックに詰めまして、骨伝導のイヤフォーンでボサノバを聞きながら、目的もなく自転車のペタルをこいだのでございます。

マイクロバスが、園児の母親の待つ道路端に停車し、郵便屋のバイクが、その脇を巧みに追い抜き、本屋の親父は店先の植物に水やりをしておりました。
空はかくまで青く澄み、かすかに潮の香りがまだらに漂ってくるのでございました。

こんな静かな八月ははじめてかもしれません。
お盆と正月の無人の都心のよーでありました。

仕事は残っております。
でも、急ぐことはございません。まだ八月。ゆっくりと進めればいいのでありますから。

音楽をとめると、懸命の蝉時雨が洪水のよーに、私メを押し包むのでございます。

「今日はサイの命日だったな」

最後の友人が死んでから五年ほどたちます。

膵臓癌が発見されたのはその年の2月。
「手を尽くさないと…」
私メの言葉に、
「んだよな」
と答えたのに、何の手も尽くさず、最後には車椅子の世話になり、まっくろになって死んでいったのであります。

サイが倒産させてしまった何代かつづいた老舗を、彼の息子が再建したのは二年後。

自分の死亡保険をつかって、
「もういちど再建してほしい」
サイが言い残した事実を知ったのは、つい最近の事でありました。

夏の陽光は地面に自転車の影を黒くおとし、なお光り、道端の砂利石までを宝石のよーにキラめかせているのでありました。