2020
10.08

生きた蟹が届きまして、大鍋で茹でたのでありました。
おが屑のなかで、蟹は思いのほか元気でありまして、
「あと数秒のイノチだよ」
瞬く間に、真っ赤に茹で上がるのでございました。

生き物を食して、生きているのだと思うと、ちょっとイヤな気持ちになりますが、そんなことを考えていたらキリがございません。

寿司も焼肉も食べることができません。
米だって植物のイノチでございます。

「上手ければイイのだ」
と思う底から、
「果たして、食したイノチに匹敵しただけの一日だったのだろうか」
振り返れば、何もせず寝転がって一日を終えることもありそうであります。
無為にブラブラして、どーでもイイ事ばかりを空想しながら日々が流れることもございます。

「祟りかな」
蟹にも夢があっただろうか。恋する相手と引き裂かれ、殺して食ってしまったのだが、それ以上の有意義な生き方もせず、テキトーに日々を送っていて、祟りがないわけがない。

湯船につかりながら、
「ああ、今日一日は完全燃焼をしたなぁ」
なんて日は、いままであっただろうか。

でも、この美味さは、すべてを忘れさせてしまうのでございます。

せめて無駄なく食ってやらなければ…なんてことを思うのも、秋だからでしょうか。
人を哲学者にしてしまいますです。哲学者ではなく、エセ坊主かもですけれど。

傍らの雑誌には、最近に死んだ芸能人や有名人の記事が載っております。
「惜しい人は誰もいねぇや」
ただ無心に蟹を貪るのでございました。