2020
12.23

7月まで感染者ゼロという数字だったのが、いまや死亡率1位となった岩手県。
なかでも雫石町の鶯宿では爆発的クラスターが発生し、医者や看護師たちまでもが感染している死の町に化しているのであります。

鶯宿は母方の先祖が開祖した温泉地でありまして、没落しては半世紀。
幼いころの思い出の地はいまやゴーストタウンなのであります。

閑散たる画像の風景こそが、鶯宿付近。
一台の車も見当たらず、たまに工事現場のトラックがかすめ過ぎるのみ。
要請された政府の関係者とみられる車もちらほら。

しかし、死亡率とか感染者数とかの数字で恐怖の妄想をはかろうとも、現実的ではございません。マスクをし、検温をし、消毒をしたところで、目に見えないウィルスを体感することはできず、
「情報に振り回されているとはこのことだな」
なのであります。

そこで、こうやってクラスターの中心地におもむき、感覚として知りたくなったのでございました。

むかし、小鳥を飼っていたことがございます。
ある夏の日に、猫に小鳥をヤラれたことがありました。
夜、アパートのドアを開けた瞬間に、部屋中から、墨のような黒い粒子を感じたのでありました。
殺気なのかもしれません。
イヤな、身震いするような感覚。
電気をつけた向こうに、鳥かごが転がっており、血の滴が二滴、三滴。ピンク色の鳥の足だけが残っておりました。籠の中は羽毛でいっぱい。

あの感覚と似た殺気が、たしかに窓外に感じられたのであります。
やはり黒墨の粒子であります。それが濃度を強めたり、薄くしたりしたまだら模様に窓外に展開しているのでありました。

大阪の十三の夜の繁華街で女の子をつれて歩いていたら、前からと後ろ、斜め横からよからぬ男どもに包囲されつつあるあの感覚。
「逃げるぞ」
空気を乱さぬようにして脇の細い通路に逸れ、小料理屋に難を逃れたことがございますが、それとも重なる殺気の空気なのでありました。

モリオカ市内に戻り、コンビニでカップ焼きそばを選んでいましたら、ふたたび、その殺気が。
目じりを赤くした若い男と、眼鏡を曇らせたお女性。
「…ヤバイ」
手にした焼きそばを元に戻し、息を止めまして、後ずさるように店のドアの外に出たのでありました。

情報より、体感。

「どごさ行ってだの?」
玄関先で髪の毛まで消毒液をスプーしている私メを老母は不思議そうに言葉を投げかけるのでありました。

カンこそが、身を守る武器なのであります。