2021
07.28

台風18号は、昼からモリオカの実家を雨の中に閉じ込めるのでした。
雨に閉じ込められながら、むかしの夢を思い出しておりました。
「ひと冬を山小屋で暮らしたい」
20代後半でしたでしょーか、けっこう真剣に考え、市役所に、冬山の管理人の募集はあるかどうかを問い合わせたこともございます。
山岳用のスキーも購入し、冬季間交通閉鎖の道を歩く訓練もいたしました。

一匹の犬をつれて雪解けまでの数カ月を、だれとも顔を合わせずに過ごそうという、その夢は麻薬のような魅力がございました。
棒ラーメンを煮たり、鯖缶をパンにはさんで食ったり、雪を鍋でとかし、ときには贅沢な料理をしてもイイだろう、晴れた日にはヘリで物資が届けらるのを待ったり。
管理人の募集がなければ、自分で山小屋を建てればいいのだ。

挫折したのは、便所の問題でございました。
水洗ではないから、溜まったヤツをどーしたらいいのだ。

電気やガスなどはなくたって構わないけれど、便所問題に考えが至ったときに、簡単に夢を手放したのでございます。
怪我や病気をしたり雪崩に遭ったりしても、そのときは覚悟を決めればいいと心が掻き立てられましたが、
「便所だけは…」
たちまち心が萎えたのでございます。

所詮は夢でしかなかったのですが、台風の雨が視界を塞ぐほどにガラス窓を打ち付ける雨の重さを感じていますと、
「いまからでも遅くはあるまい」
週に二度は、山小屋からリモート講義も洒落ているではないかと、想像に陶酔してしまうのでございました。

いや何も山小屋でなくても。
モリオカに来て、老母以外とはまともな会話をしていないことに気づくのでありました。

限りなく、自分の内部へと内部へと向かっているみたいでございます。
部屋にはロシアの曲で満たされております。