2021
10.27

蘭丸さまに会ってきました。
ジェンダーの蘭丸さまに。

…だのに蘭丸さまはピンクのセーターに身をつつみ、お女性へと変貌していたのでございます。

「ホルモン注射を打ったばかりなのだ」
私メは自分に言い聞かせ、しかし、遠くから見つめるばかり。

きっとそーだろう、そーに違いない、種粒のよーな乳首と、ツクシのような細いペニスは、きっときっと衣服に隠されているはずなのでありました。

けれど、蘭丸さまは、もう私メのことを憶えてもいないのです。

夏前に見かけた時の、目を刃のようにすぼめ、
「なによ、あなたなんか」
とでも言うような氷のような冷酷な仕草もみせないのであります。

「恋をしているのだ、恋を」
あの小太りの男に相違ない。

私メには見せたことのない笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えた、あの小太りの男に、間違いなく蘭丸さまは恋をしているのだ。
それは根拠のない直感でしたが、根拠がないだけに透き通るよーな確信でございました。

蘭丸さまの、か細いペニスは、あの男のスポンジのよーな掌に握られ、息の詰まる口づけを夜ごと交わしているのか。
そして、そして頬に青く伸び始めたおひげで、小男のお腹のあたりをザラザラしているのでないか。
そしてそしてそして、シェービングを塗られ、小男の肉付きのイイ子指を立てて握ったカミソリで、そのおひげを剃られているのではないか。
そのとき、蘭丸さまはうっとりと瞼を閉じているのではないか。
ああ、そのとじた瞼ごしに眼球を舐めてみたい。
さらにまた、小太りの分厚い唇によって、
ゴマ粒ほどの乳首は、いまではアサガオの種ぐらいに大きくなっているのでは。

硬い生地のシャツでは、動くたびに乳首が刺激されるから、だから、あのよーな柔らかなセーターを身に付けているのだな。
まさか、男のパンツを洗濯してバスルームに干してから、コンビニに出勤しているのではあるまいな。

乾兌離震巽坎艮坤、けんだりしんそんかんごんこん、ケンダリシンソンカンゴンコン
唱えてもとなえても嫉妬の暗い炎は燃え盛るばかり。

そして、よもや私メをダシにして、
「いやらしージジイがいるのよ」
と小太りの男の恋心を刺激しているのではあるまいな。
そして、
「たすけて、またジジイがきて写真撮られたわ」
つまり無関心を装っているだけで、蘭丸さまは、私メを意識しているはずなのであります。

レジに、カニカマを置きましたら、青年の店員が飛び出してきて、「ここは僕が」と蘭丸さまを制したのであります。

ライバルがまた一人…。

実家の坂道を登りながら、蘭丸、蘭丸、蘭丸と呼び捨てにして、心で連呼したのであります。
声に漏れていたかもしれませぬ。
雨が降ってまいりました。